母子像 03 |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

怪談・幽霊・猟奇・呪い・魔界・妖怪・精霊などを書いております。

化粧とは、実は諸刃の剣なのである。
自己の顔貌を極限まで惹きたて異性の性衝動を誘引するが、その実「化粧焼け」と言われる皮膚の黒化現象を引き起こす。
これは、化粧品が皮膚呼吸を少なからず阻害するための酸欠現象である。
ひところ前には「どうらん焼け」とか「おしろい焼け」と呼ばれていた。
メーカーは頑なに隠してはいるのだが・・・

澤井は、「まさに、我々の仕事ではなさそうですね。」、と慣れない白衣の裾を触っている。
「原研も政府も、この事は承知なんでしょうねぇ、澤井さん。 あなた無断で皮膚片を持ち出したでしょ ? 」、石川は微笑みながら澤井を睨んだ。
「先生にご迷惑は決してお掛けしません。ただ、自分が扱った事案として納得のいく結論が欲しかったんです。」、澤井も俯いたものの刑事としての姿は崩さなかった。
「わかったわ。せっかくだから澤井刑事の顔を立ててあげる。」、そう言って石川は皮膚片をスペクトル解析器にかけた。
「化粧品、とくにルージュやファンデーションなどには、成分表に「その他」と書かれている添加物に金属が使われてるの。堂々とナノプラチナ配合なんてうたってるメーカーもあるわ。」
「さすが犯罪生理学のトップですね。」、澤井はいらぬお世辞を言う。
「この、「その他」がメーカーの隠し味になっていて、これが分析出来れば製造元が特定できる分けなのよ。」、澤井と石川は分析結果を待った。
「出たわ。・・・これ、ケナルスよ。あ、成分じゃなくて特許名。確かケナルス塗ってたミイラ女性がいたわね。」、石川は白衣からタブレットを取り出し検索し始めた。
「一昨年のニューイングランドとコネチガットね。二人とも死後半年程度の自然死体として発見されてる。」
「いったい、どこのデーターなんですか ? 」、澤井の職業魂がうずく。
「FBIに決まってるじゃないの、こんな暇な事するのは。でも、彼らのデーターは無駄になってない、顔面は厚化粧だった為、腐敗が少なく乾燥が先だったとされてるわ。放射線測定はしてないみたいだけど。」
「連続殺人ですね。」、澤井は固唾を呑んだ。
「違う。これは前代未聞の「テロ」よ。」


                          この作品はフィクションです。