母子像 04 |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

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白骨身元不明死体の割り出しで最も困難とされているのは、一度も虫歯治療や整形手術をしていない遺体であった。
なぜなら、「カルテ」という人間の持つ一番重要な個人情報が欠けているからである。
人間の究極の姿である「白骨」が持つ情報は少なすぎた。
歯や骨にICチップを入れる時代はすぐ先にあるだろう。


「休憩にしましょ。」、石川は白衣を脱いで喫煙室に向かう。
「先生もタバコ吸うんですね。」、実は澤井も喫煙欲求がMaxに達していた。
「ねぇ、こんな事件抱えてどうすんのよ ? 」、石川は深々と紫煙を吸う。
「はぁ・・・まぁ・・・」、とつぶやいて澤井は石川の顔を見た。
「あれ・・・先生、すっぴんなんですね ? 」
それを聞いた石川はそっぽを向いて、「今ごろ気づいたから教えてあげる。素顔に耐えられるのは今のうちだけ・・・神に護られている若さはすぐに去り、やがて豊齢線が出来て鼻の軟骨が縮み始めるわ。」
「神ですか・・・」、澤井は女性心理の複雑さを知らない。
「だって、悪魔は契約を裏切らないから。」、そう言う石川の言葉に澤井はますます混乱した。

「いろいろすみません。ありがとうございました。」、澤井は歯切れの悪い挨拶をして帰って行った。
教授室に戻った石川は早速、非公開の犯罪生理学研究ネットの掲示板に事の次第を書き込む。
「もし、こんな事例が海外にもあれば今ごろ大騒ぎなわけよねぇ。」、とコーヒーカップを口に押し付けた。
さっそく、FBIと思える書き込みがあった。
「航空チケットを成田に用意しました。ペンシルベニア935でお待ちしてます。」
石川は、「お前が来い、私はもう帰る。」、と日本語で書き込んでパソコンの電源を落とした。

大学の銀杏並木のキャンバスを、コートの襟を立てて歩いている石川の前に小学生くらいの女の子が横切った。
オッドアイ(虹彩異色)のその子は、「暖かい所で私のお話聞いてもらえませんか ? 石川先生。」、と深々と頭を下げた。
石川は科学者の直感で、「あなた、人間じゃないわよね ? 」、と言う。