母子像 02 |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

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昔、スミスという植物学者の書いた図鑑にあるカメレオンは、擬態の真っ最中であったため多くの人がカメレオンは迷彩色だと信じ続けた。
そして人間の女性といえば、寝てる時間だけが素顔なんてのは、もはや化粧顔が本人の紛れも無い「顔」なのであろう。


石川は取り乱していた。
たまたま急いでいたため、線量計バッチを着けたままの白衣で来た事が彼女と澤井刑事の命を救ったのである。
「先生、僕には何だかサッパリ分かりませんが ? 」、澤井は石川の慌て方にむしろ驚愕していた。
「私たちが浴びたのは、人間が一年間で浴びていい放射線を30分で超えたものなのよ。バッチを調べてみないと判らないけど、ざっと見積もって1年4ヶ月分くらいかしら ? 」、石川は自身を落ち着けるため澤井には解らないであろう詰まらない冗談を言った。
「はぁ・・・」、と言った澤井に、「あなた、お子さんは居るの ? 」、と石川が聞いた。
「いません。俺、独身なんです。」
「じゃあ、ウチの大学病院で生殖細胞検査を受けなさい。最悪の場合、子種ないかも。」、と言いながらも石川は自分の卵細胞に想いを巡らした。
絶句している澤井に、「これは私の仕事じゃないわね。でも面倒でも経過報告は教えてちょうだい。」、石川はそう言って、「独りで帰る」と澤井に告げた。

3日過ぎた日の午後、澤井は再び石川のもとを訪れた。
「先生、ご遺体は原研(原子力研究開発機構)に送られました。」、澤井はなぜか落ち着きがなかった。
「そう、澤井さんの落ち着きがないのは子種の検査を受けたからではなさそうね。」、石川はちょっと嫌味を言う。
「すみません。先生に診てもらいたい検体がありまして・・・」、澤井は持っているキャリーボックスに目をやる。
「なるほどね、あの女性の顔の皮膚片が入ってるのね。」、石川はロッカーからガイガーミュラー計数管と白衣を取り出し、「検査は放射線遮断ケースのある実験棟でやるから。」と言って澤井に白衣を渡した。

「思ったとおりだわ。」、石川はロボットアームが掴んでいる皮膚片を位相差顕微鏡のモニターに映し出した。
「何が分かったんですか ? 」、澤井にはサッパリ分からない。
「これは明らかに殺人よ。女性がメイクしていた化粧品に放射線元素が含まれてるから。」、石川は深くため息をついた。