むらさき |  月は欠けてるほうが美しい

 月は欠けてるほうが美しい

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正月というと普段は会えない懐魂の友人と会ったりする。
昨日、会ったのは全国を歩くフリーのプロ結婚式司会者の友人。
まさか、元日に結婚式を挙げる人はいないので帰京してきたのであった。

「最近は地味婚どころか結婚式自体をしないカップルが増えてさぁ、去年はサッパリだったよ。」、彼は私が差し出した日本酒を受けながらボヤいた。
「そっかぁ、国道沿いのH安閣も葬儀場になっちまったしな。」、俺は返す手で手酌する。
「ところでさ、お前が悦びそうな事があったんだぜ。」、友人はグイ飲みを干し上げた。
友人の話はこうだった。

長野県のY温泉のホテルから司会の依頼があった。
通常、フリーの司会者は式の前日に入り、式場と打ち合わせを終え一泊する。
その地方の風習では、朝からホテルで式が始まり昼から披露宴、そして終宴後はホテルの温泉に一泊してもらうという豪華なものだった。
彼は打ち合わせが終わり、ひと風呂浴びてマネージャーの奥様と部屋で夕食をしていた。
「あなた、お風呂で・・・変なの見たの。」、奥様は少し首をかしげて話した。
「何んだよ、変なのって ? 」
「うーん、湯気が紫ってのか、どっからか紫の煙が入っていたと言うか・・・とにかく光があたって紫になったというんじゃなく、なんか不透明な紫のモヤモヤよ。」、奥様は好物の野沢菜を平らげていく。
その時はその会話だけで終わったのだが、翌日の式の途中で彼の司会の合間に奥様が、「ほら、あれよ。」、と下座の金襴扉を指差した。
紫色の小さい雲が来客のテーブルの上に浮かんでいた。
雲は式の間中、浮かび続け徐々に薄くなって消えたのだという。
式が終わってホテルの支配人にその事を告げると、「他で言わないで下さい。解るでしょ ? あなたもプロなんだから。」、と言われたそうだ。
「解るでしょ ? ったって解らないよなぁ。」、そう言って友人は酒のおかわりを要求した。