和多田作一郎著『人工知能の理解を深める本』という書籍を紹介する。
2011年6月20日、日本国産のスーパーコンピュータ「京」が演算速度世界一となり、話題となりました。現在、コンピュータは企業だけでなく、生活の一部となりつつあります。私は学生時代からコンピュータに興味があり、和多田作一郎氏著の『人工知能の理解を深める本』という書籍を読破しました。
この書籍により、人間と機械との相違を認識できることができました。人間は考えることができます。しかし、これまでのコンピュータは、人間に比べて、ものすごく速い処理(計算)能力を持っていますが、考えることはできませんでした。人間の考えて作ったプログラムをコンピュータの頭脳部分に記憶させることによって、人間の指示したデータの処理をするだけの機械がこれまでのコンピュータでした。考えるとはどういうことなのでしょうか。1965年夏、ダートマス大学のキャンパスに「考える機械」、つまり「知的行動」をするコンピュータについて話し合うために多くの人々が集まりました。この集まりを、後の人々はダートマス会議と呼びました。そして、この会議が人工知能の胎動期を招来しました(18頁参照)。現在でも考える、ということに明確な定義はありません。また、人工知能の定義もあいまいです。あいまいということは、人工知能の対象が固定しているのではなく、時代とともに変わっていくからです。現在のコンピュータが出現した当初、人間の手作業では不可能な微分方程式を瞬時に計算するのをみて、これを人工知能と呼んだ時代がありました。1960年代の末頃には、アルファベットや数字を読み取る技術は人工知能と呼ばれていましたが、現在では光学的文字読取装置(OCR)を人工知能と呼ぶ人はいません(19頁参照)。人工知能とはその時々の技術水準によって変わってくるものなのです。
人工知能の目的は、考える機械、つまり知識を持った機械の実現や、知識を商品にしてあらゆる分野の専門家の代替をするエクスパート・システムの実現だけではありません。もう一つ大きな目的に、現在の使いにくいコンピュータを、より人間に近づけて使いやすいコンピュータを実現するということがあります(27頁参照)。人工知能の研究は、コンピュータに、①学習による知識の蓄積、②問題(新しい事態)を見極める能力、③蓄積した知識を基にして推論によって問題を解決する能力、をやらせることを目的にしています。人工知能の応用システムは、①パターン理解システムと、②エクスパート・システム(問題解決システム)の二つに大別することができます。パターン理解システムは、人間の目、耳、口の能力を代行するシステムであって、これは「問題(新しい事態)を見極める能力」であって、これができるためには、コンピュータに人間の五感に相当する能力をつけなくてはなりません。エクスパート・システムは、推論によって問題を解決する能力をもったコンピュータで、人間の意思決定を反復したり、人間に代わって問題を解決する人工知能を目指しています。専門家(エクスパート)のもっている知識を、人間が知識ベースに記憶させることと、必要に応じてこの蓄積知識を用いて問題解決に対して推論する機構、つまり推論する機構が働くことが、エクスパート・システムの必要条件になります。エクスパート・システムは推論するコンピュータであって、パターン理解システムにもこのような知識ベースと推論機構が必要になります。人工知能の究極の目的は人間と同じように創造するコンピュータの実現です(40頁参照)。
人工知能は、情報科学、論理学、認知科学などを基礎にして、知識工学という新しい科学を生み出しました(46頁参照)。認知科学は人間をシステムとして考えて、その入・出力の関係を研究することによって人間の認識・記憶・学習・推論の仕組みを解明する学問です。その基礎を認知心理学、言語学に置き、情報科学(ハードウェア、ソフトウェア工学)の立場から人間行動の仕組みを解明します。認知とは、目や耳などの感覚器を通して入力した外界のデータが、何らかの処理を経ながら意識水準にまで上がった結果の意識体験のこと、と定義されています。したがって、認知には認知の対象があり、それを入力とした情報の流れがあります(48頁参照)。認知と認識には違いがあります。認知は前述した通りです。別の表現をすると、認知とは、経験や学習あるいは見たり聞いたりしたことによって知識を獲得する、人間の知的プロセスとも言えます。獲得された知識は、情報記憶機構の中に記憶されました。人工知能には、これとそっくりな機構があります。この情報記憶機構に相当するものが知識ベースです。人間が外界情報を低次から高次に処理するプロセスで、この情報記憶機構に蓄えられている情報を探索して利用しています。人工知能において、これに相当するものが推論機構です。認知は能動的・主観的性格を帯びていて、人間の意識の水準まで上がって理解が伴っていなければなりません。獲得された経験・知識が単に記憶の中に受動的に蓄えられるのではなく、学習された概念構造を形成して、それ以後の獲得される経験・知識を記述するための中心的な役割を果たさなければなりません。これに対して、認識は受動的で、見たり聞いたりしたことで、理解が伴う必要のないものです(51頁参照)。
人間の認知的情報処理の流れには、データ推進型(ボトムアップ型)処理と概念推進型(トップダウン型)処理があります(52頁参照)。また、解法や解き方の手順が公式などで決まっている問題もあります。この公式さえ知っていれば、誰でも二次方程式や連立方程式などを解くことができます。このような問題解決を、手続的推論あるいはアルゴリズム的(アルゴリズミック)推論と言います。これは、設定された問題を解くための一連の手順、つまりアルゴリズムが決まっているので、現在のコンピュータでも解くことができます(66頁参照)。推論の目的は問題解決にあり、人工知能の問題解決は探索型推論です。探索というのは人工知能の中核的な概念で、現在までのコンピュータの手続型推論(プログラム化できる推論)とは大きく異なります。問題を人間が解ける理由は、その頭脳に経験と定理という知識を記憶していて、この知識を活用するからです。知識を活用するというのは、あれこれと考えて、つまり試行錯誤によって知識の適用方法を探索することです。この探索方法には、現状から出発して目標条件を満たす方向に後向きに推論する方法と、目標から出発して現状の方向に推論する方法とがあります。前者を後向き推論あるいはデータ駆動型推論またはボトムアップ型推論と言います。後者は前向き推論、目標指向型推論、トップダウン型推論と言います(80頁参照)。
コンピュータが思考する方法とは、すなわち人間が思考する方法に類似しています。論理的な思考を身につけたい方にはコンピュータが思考する方法がとても参考になると思います。論理的な思考を身につけたい方には和多田作一郎氏著の『人工知能の理解を深める本』という書籍は有用な書籍だと思います。