NHKの『生活笑百科』
長谷川俊明著『戦略訴訟』という書籍を紹介する。
長谷川俊明氏著の『戦略訴訟』という書籍の中でいくつかの具体例をもって紹介しているように、アメリカの企業には、訴訟ビジネスという言葉に象徴されるような訴訟観をもち、しかもこれを実践しているところが多いです。もともと訴訟というのは社会の紛争を解決する手段であり、手続きです。「社会あるところ法あり」と言われますが、私達の社会から争いごとが絶えてなくならない限り、法とか裁判制度の必要性は失われません。争いがあるからこそ、法や紛争解決方法としての訴訟が生まれてきたと言ってよいでしょう(vii頁参照)。
アメリカの法文化は、よく知られているようにイギリスのそれを継受したものです。植民地時代を経て、1776年「独立宣言」以降は、イギリスの伝統的な法体系とはやや異なる独自の法制度を築き上げてきましたが、基本的にはイギリスの法文化によっていることは否定できません。イギリスの法文化は、コモン・ローと称する法体系によって特色づけられています。コモン・ローの語は必ずしも一義的ではありませんが、一般に、ローマ法ないしこれを継承した大陸法の法体系と対比させた英米法の法体系を広く指します。コモン・ローは大陸法とともに世界の二大法系です。このうち、大陸法は、近代法の淵源といわれるローマ法の流れをまともに受け継いだものです。「ローマは三度諸民族を統一した。一度はローマ帝国自身、二度目はキリスト教によって、三度目はローマ法によって」と言われるほどに、法の世界におけるローマ法の存在は大きいものがあります。このローマ法は、その後、フランス、ドイツを中心とするヨーロッパ大陸諸国によって近代に復活されられました。「大陸」というのは、イギリスからみたヨーロッパ大陸のことです。大陸法は、また、近代化されたローマ法という意味で、シビル・ローと称されることもよくあります。ちなみに、日本の民法典は、ドイツ、フランス法の影響を強く受けており、大陸法系に属するものということができます。コモン・ローは、ローマ法の影響を一応排し、ゲルマン法を基調に判例法のかたちで独自に形成されてきた慣習法です(19頁参照)。
法体系としてコモン・ローと大陸法をみた場合の最大の相違点は、判例法主義と制定法主義の違いです。つまり、大陸法がローマ法の影響から制定法を第一次的法源とするのに対し、コモン・ローではゲルマン法を背景として判例法を第一次的法源とします。コモン・ローの基調をなすゲルマン法は、特にその初期において、厳格法的性格が強く、契約等によって発生する個人の責任を厳格に追及する傾向が顕著です。例えば、いったん契約が成立すれば、その後に当事者の責に帰すことのできない出来事が発生して履行が不可能になっても、履行責任を免れることはできません。大陸法的な不可抗力による免責の抗弁や事情変更の原則は、ここでは、一応無縁のものとされているのです。絶対的契約の伝統が、コモン・ローの中に脈打ち、アメリカ法の根底にも流れていることは重要です。このような考え方は、契約がいったん有効に成立したならば、あくまでこれを強制するということに繋がってくるものでありますが、英米法の契約の「定義」の中にもあらわれています。すなわち、英米契約法では一般に、契約とは、「二人以上の当事者間に締結された、法律上強制可能な合意」をいうとされています。ここでは、単なる合意と契約とが法律上強制可能かどうかによって区別されています。一方、大陸法では一般に「契約とは、互いに対立する二つ以上の意思表示の合致(合意)によって成立する法律行為である」と説きます。「法律上強制可能」は、しばしば「裁判上強制可能」と置き換えられるように、契約を、そもそもからして、裁判によって強制されるということと結び付けられて説明するところに英米法の特色があるように思えます。また、一面において、契約社会における訴訟の果たす役割の大きさも示しているとも考えられます(19頁参照)。