前回↑




小学4年生の冬僕はいつも通りじゅんきと家まで30分の距離を歩いて下校をしていた。


じゅんきは2年生の時に親の転勤でこっちに引っ越してきて、家が近かった事もあり

よく登下校を一緒にしていた友達だった。



僕らの毎日のルーティンとして

一緒に下校をしてじゅんきの家に行っては

ムジュラの仮面を2人でやっていた。


当時僕らの中では

ムジュラの仮面をやっている=かっこいい

と一目置かれるくらい当時の子供達をトラウマにさせる怖さだった。

僕もあの月が落ちてくるシーンがトラウマになって何度眠れない夜を過ごしたかわからない。






だから本当は2人とも

ムジュラの仮面をやりたくなかった。

でもカッコいいと言われるのに多感な時期にやめる事はできなかった。

ただ、当時の小学生のレベルでは到底クリア出来ない程難しく、ゲームは全く進まなく3ヶ月たっても一向に全クリの兆しが見えなかった。


「帰ったらゲームどっちやる?」


じゅんきが僕に言ってきた。

ムジュラの仮面は1人プレイなので1人がやりながらもう1人は後ろで怖いのを必死に抑えながらアドバイスをするみたいな感じでやっていた。



「じゅんき先やっていいよ」


「いや、先は譲るよ」


「したっけ、あそこの電信柱に雪玉当てた方が先やることにしよーぜ」


「望むところだ!」




こうして2人の不毛な戦いが始まった。



10分後


「全然当たらねー」


「俺も昨日寝違えて肩痛いんだよね。。」


「あー俺も」


2人とも全く電信柱に当たらない。

正確には当てていない。




だって2人ともやりたくないんだもん。





30分後






「あ、やべ」


じゅんきが投げた雪玉は

ギリギリを攻めたらしく

電信柱にかるく掠った




「当たったからじゅんきからね!

いやーやりたかったぁ」





この時僕が男気という言葉を発見していたら第一人者になれたかもしれない。

それくらい悔しい演技がピカイチだった。




「いやぁ当たってないんじゃない?」




じゅんきがそうつぶやいた。



完全に男気だったらケツバットいかれてる

イチャモンの付け方だ。




「いや、当たってるよ見に行こうぜ」




そう言って僕は電信柱の横に2mくらい

つもった雪山を登りながらに

雪玉が掠ってないか確認しようとした。





「いや!!!当たってないって!!!」




そう言って僕の足を引っ張って雪山から

引きづり落とした。








こうなってしまってはもう争うしかない。







だってムジュラの仮面が怖いんだもん。


当たってる当たってないの取っ組み合いで僕たちは雪が降り積もる中、胸ぐらを掴み合った。



僕は昔からあまり戦いというのを好きではなく、ウルトラマンやライダー系のアニメを一切見ないで、

「ポケモン」だとか「ぼのぼの」だとか

「おジャ魔女どれみ」だとか

そんなのばっかりみてた温厚派だった。


それでもムジュラの仮面は

決して譲れなかった。



15分程取っ組み合いをしてたとき

僕がマウントを取って

完全にホールド待ちの状態になっていた。





「ムジュラの仮面やってよぉ。。」






「嫌だよ。。怖いヨォ。。」






もはやここまで行ったらやらなければ良いのにと今思えば思うけど、

僕らにとってはムジュラの仮面が世界の中心だった。





「グルぁあああ!!」


  1. 突如として僕は天地がひっくり返って体感3メートルくらいぶん投げられた。
  2. 何が何だか分からなかった。
  3. 地面に打ち付けられた僕は胸が苦しくなった



「上級生が下級生をいじめて

何してるんだい!!」




ゴロン族みたいなおばあさん👵が僕の胸ぐらを掴んで激昂していた。






そうなのである。


僕は子供の頃から身長が大きく

じゅんきとは頭二つ違った為、

通りかかったゴロン婆👵視点では

上級生が下級生がいじめていたと

誤解したのである。




僕は何が何だか全く分からなくて

ただただ知らないおばあさん👵にぶん投げられた恐怖と知らない人に激昂されてる恐怖で言葉が全く出なかった。




「なんとか言ったら

どうなんだい!!」





間違った正義ほど恐ろしいものはない。

僕は恐怖に打ち勝つ様に言葉を振り絞った。








「ゼ、ゼルダぁ。。」






「誰が

デブだよ!!!!」




完全に話にならなかった。

僕はここで世の中の不条理を知った。




そこからの記憶はない。





泣きじゃくる僕の頭を優しく撫でてくれた

じゅんきの手はかすかに震えていた。





きっと不条理に怒られてる僕への助けられなかった罪悪感と恐怖で手が震えていたのだろう。





ぼくらはそれ以来

ムジュラの仮面をやらなくなったし、

それ以来じゅんきとはなんとなく疎遠になってしまった。




今思えばこれも青春だったのかもしれない。






「勘違いって恐ろしいよな」


佐伯にそう言ってMOROHAさんの事を馬鹿にしてない事を理論整然と伝えた。


佐伯もわかってくれたみたいで

なんとか無事に事なきを得た。

あれから本気で人に怒ったことは1度もない。大人になると世間体や、しがらみなど沢山あるからだ。


そう考えると子供時代はなんて自由だったんだろうと思う。



「じゃあ、取り合えず、懐かしい場所を回るか!」


そう言って走り出そうとエンジンをかけながら、佐伯が


「あ、この複合ビルも先月潰れたんだぜー

お前ここで文化祭サボって

ボーリングしてクラスの

女子全員から絶縁状態になってたよな」




ここでまた僕の奥底に眠っていた

トラウマの扉が1つ開いた。



次回、学祭でミスターコンテスト1位なのに

女子のほとんどから嫌われていた高校2年生