夢が叶ったとき
さすが北米最大のフリンジ、エドモントン。
もはや食べるひまも寝るひまも、ろくにない。毎日走り回っていて、もちろんブログも書けていない。
カルガリーからエドモントンへ、デイブの運転で送ってもらい、無事に到着。
カナダ、アルバータ州のハイウェイは見渡す限りの平原。
サンキュウ、デイブ!
でっかいタイヤを積んだトラック。
でかい!
新しいビレットのジョーンとジャネット夫妻もとても親切で、すべて順調。
ホームメイドのワインで早速乾杯!
ジョーンは17年前にがんを患い、以来ずっと闘っている。ベテランの消防士であり、特に森林火災のスペシャリスト。
ジャネットはマッサージ師で、引退した今は家具をリメイクしたり、さまざまなアート作品を創っている。素晴らしき料理の腕前の持ち主。
毎日のようにパンやケーキを焼き、ジャムを手作りし、美味しい料理を作るジャネット。
翌日から再びフリンジフル稼働!
しかしテクリハの現場でiPadと音響機材をつなぐコネクターを自分で手配しなければならなかったことを知り、またしても急遽デイブが駆けつけてくれて、車で一緒にコネクターを探して店をハシゴしたり、そのせいでテクリハを30分しかできなかったり。
このコネクターが必要だった。いくつもの店を周り、ようやくアップルストアでゲット。
救世主のデイブと、エドモントンの私のテク、27歳のミッキー。オーストラリアからここカナダを訪れている。
とにかくもう駆けずり回っていた。
そして!
初日を迎える前に、なんと私の9ステージは全てソールドアウトしたのだった。
こんなこと…、こんなこと…、、、
夢だった、長い長いあいだ、ずっと。
北米最大のフリンジ、エドモントン。参加作品は216本。さらにキッズショーやアウトドアショー、音楽ライブも多数。
その膨大な数の公演のうち、初日を待たずに全公演をソールドアウトした作品はほとんどないと思われる。
あまりの幸運に、もうすぐ死ぬんじゃないかと怯えている。
そう言うと、多くの友人たちは「いや、死なないで。」と言ってくれるが、兄同然の盟友マーティンだけは違った。
「俺もそう思う。すごく低いところから、苦労して長い年月かけてじわじわと人生が上がって行って、今が君の人生最高の到達点だろ?きっともうすぐ死ぬよ。わかる。」
「どうやって死ぬのかな?あんまり痛くないといいけど。」
「いや、わからないな。痛いかも。」
「車に轢かれるかな。階段から落ちるのかな。」
「いや、もしかしたら、車に轢かれたのち、階段から落ちて、めちゃくちゃ苦しんで死ぬのかもな。」
「ありえるよね。」
「ありえるよな。」
やはりマーティンはよくわかっている。
膨大な数のポスター。Happy Go Luckyはどこかな?
町中にあるポスター用のでっかい柱。
デイブ撮影。ヤノミとポスター。
フリンジのスタッフたち。とても親切。
2010年に出会った大道芸人、スタチューのダニエル。私のことをちゃんと覚えてくれていた。「花がいっぱいついた衣装とメイクで毎日がんばっていただろ?覚えてるよ。」
どのショーを観るか、ポスターを眺めて選んでいる人々。
バスの窓から見える、巨大な脚。この大きさ、伝わるかな?20m以上ある。
分厚いフリンジのプログラム。
迎えた初日、金曜の早朝にはデイブが車で迎えに来てくれて、ダウンタウンのCBCスタジオへ。朝のラジオ番組に生出演。
CBCのロゴとヤノミのシルエット。
この白い小さいパペットが、カナダ各地で大活躍!
親切にインタビューしてくれて、とても楽しく終えることができた。
おそらくこのラジオ出演も、ソールドアウトに繋がった大きな要因だと思う。
ウィニペグ公演を踏まえてカルガリーにて作品の修正とアレンジを繰り返したおかげで、エドモントンの初日は前説からガッツリ盛り上がった。
デイブが念のためミッキーの隣に座って、音響照明が無事に進むよう万全を期してくれた。80席の劇場が埋まり、観客はおおいにリアクションしてくれた。
最高の幕開けと言える。
初日祝いの乾杯!デイブは命の恩人。ありがとう。
大好きな仲良しのウェンディのソロショー。愛すべきクラウン。
フリンジのベテランアーティストの多くは、このように大きなロール式のスクリーンポスターを持ち歩いて各劇場に大々的に掲げている。もちろん私は持っていない。
カルガリーで出会ったクラウンのクリス(右)。本物のキャバレー劇場で、なんとキッズショーを上演している。
真ん中は長年の友、日系カナダ人のクンジ。初めてのエドモントン。左はクリスのステージマネージャー。
アーティストが集うメインパブ、スチールホイールズ。韓国系のレストランで、ビールも食べ物も安くて助かる。
無数の紙皿に描かれた絵や文字が名物。
カルガリーでお世話になったフリンジスタッフのアトリーナと娘さん。
足りなくなってきた私の缶バッジを制作し、アトリーナが届けてくれた。ありがとう。
ベテラン大道芸人のクリス。
クリスも私が2010年にエドモントンにて大道芸をしていたことを覚えていてくれた。
「覚えてるよ、頭にいっぱい花つけてさ。大道芸の集客のやり方も知らなくて、毎日そりゃもう苦労していたよな。まるで生まれたてのひよこみたいなもんだった。それが今や、インサイド(大道芸ではなく劇場公演)で全公演ソールドアウトだなんて、ものすごい物語だな!君を誇りに思うよ。」
あの頃の私の格闘を、苦悩を、覚えていてくれる友達がいる。
(2010年夏の模様も小心記に記しています。)
そして何より、今の私の成功を心から喜んでくれる友達がいる。
クリスが投稿してくれたFacebookのポストには、世界中の大道芸人たちから祝福のコメントが寄せられた。
あの年、何度泣いたことか。どれだけお腹が空いていたことか。食べ物もろくに買えなかった。いつもいつもしんどかった。でも、友達がいた。
そんな苦労をしてきた私は、隙間を見つけてジャネットと相談してレシピを選び、日本から来て苦戦しているシアターガンボのメンバーに手料理を差し入れすることにした。
たくさんの具材を入れて作ったキッシュ。栄養満点!
みんなとても喜んでくれた。よかった。
オレゴンから駆けつけたマイケルとディナー。2015年に出会ったアーティスト。大学で日本の能や文楽について教えているそうだ。
ジャネット特製のパイ。ルバーブという酸っぱい野菜とイチゴ入り。
手作りのパン。すごいクオリティ!
今年もたくさんの大道芸人たちが連日、ショーを繰り広げている。
かつてここにいた芸人たちのほとんどは今ここにいない。でも世界のあちこちで、今も元気に活躍している。驚くことに、そのうちのひとり、イーダンはなんと弁護士になったそうだ。そんなことある??
フリンジの劇場をつなぐ無料のシャトルバスの車内。ここにもポスターがいっぱい。
スクールバスがフリンジのシャトルだよ。1時間に2本。
今年、ウィニペグに続いてエドモントンでも私はポスター貼りのプロを雇っていた。こちらがそのニコラス。フリンジにある38もの劇場のほとんど、そして町中の効果的なポイントにしっかり丁寧にポスターを貼ってくれた。
全公演ソールドアウトしたよ、ありがとうと伝えると、ニコラスは目を丸くして驚き、とても喜んでくれた。
彼はボランティアとしてフリンジのチケットスキャンもしており、この日は私のショーを観てくれた。
月曜は敬愛するアーティスト、アミカとブルースによるThe COWbaretにゲスト出演した。
牛にまつわるクイズを用意し、それぞれのクイズの正解者のうち一人に景品も手作りした。非常にウケた。アミカとブルースもとても喜んでくれていた。
9年ぶりの再会。素晴らしき女性ソロアーティストのシューリーとタラ。
2015年のツアーにて、複数の女性ソロアーティストたちが集まり、「フリンジファム」と銘打って共同でプロモーション活動を行った。今でこそ女性ソロも増えてきたが、それでもやはり男性に比べると非常に分が悪いことが多い。
ひとりでツアーを回るというのは、とてつもなくリスキーで大変な労力と覚悟が要る。
そしてこのパワフルで美しい女性ソロアーティストたちは、いつだって優しくてユーモアに溢れているのだ。
ティミーシャ、ブルック、ウェンディ、ヤノミ、イングリッド、キャンディ、シューリー、ジョアンナ、そしてまだ名前を知らない二人のアーティスト。
一緒に別の友人アーティストのショーを並んで観劇し、一緒にゲラゲラ笑ったり感動したりする。
次、私これを観にいくよ、私はこっち、じゃまた後でね!とあちこちで会話が交わされる。
私が大成功している一方、今日は2枚しかチケットが売れていない、とか、4人しか観客がいなかった、とか、ものすごく苦戦している友人たちもいっぱいいる。そして彼らはみんな一日中、ポスターの看板を背負って宣伝して歩いている。
ペーパーレスを推奨するエドモントンフリンジでは紙のフライヤーを撒くことが禁じられているため、それぞれがチケット予約サイトのQRコードを掲げたりしながら、他の公演の入場を待つ観客の列に話しかけ、自分のショーの宣伝をするのだ。
まさに一人ひとりに話しかけ、草の根の活動をしながら。
私は毎日自分のカーテンコールで、できる限り他の作品の宣伝をしている。
いつも友人たちが私のためにしてくれたように。
いつもすんごいショーをやるディアナ。素晴らしきクラウンであり、ウェンディやクリスのショーの演出も手がけている。
そしてフリンジの2週目、劇評が出た。
私のベニューのあるフレンチクオーターのアーティスト・グリーンルームにて、このBYOVベニューをマネジメントしつつ、2本の異なるショーにも出演している俳優、ジョン・ペーターソンが私の劇評をスマホで見せてくれた。
エドモントン・ジャーナル紙による劇評は、なんと5ツ星!!!
★★★★★-Edmonton Journal
愉快でクレイジーなショー。
(中略)
この小さな存在が部屋全体を支配し、誰もが沈黙し、魅了され、忘れがたい刻印を刻み込まれた。
かわいいテク、ミッキーと。
タミーがくれたこのパーカーが、エドモントンでも私に幸運を運んでくれている。
私の本番前、長い行列。
ダニエルのスタチュー。
アーティストラウンジには、このように緑色の無料チケットが壁一面に貼られている。
それぞれのカンパニーがアーティスト仲間に向けて提供しているチケット、Pump Up The Volumeチケット。
女性の性器に扮したケイトによる強烈なソロショー。
自身の壮絶な経験に基づく、爆笑かつとても深いテーマの舞台。
ケイトと私のポスターが並ぶ、とあるウィンドウ。
みんなが集うスチールホイールズのカウンター。
左から、アル・ラフランス、アミカ、そしてポール。
右から、エリカ、タムリン、リネア。
ジャネットが贈ってくれたバースデイカード。
ジャネットが大好きなブルーの蝶々、ファスナーにつけるアクセサリー。
ジャネットがチーズケーキを焼いてくれていた!
日本のチーズケーキのレシピだそうで、チョコレートだけで砂糖なしの上品な甘さ。
世界中の友達から、お祝いのメッセージが届いている。
なんと幸せな人生だろうか。
モントリオールフリンジから17年、どんなに観客が少ない時もフリンジの魅力に圧倒されつづけ、数えきれないほどの友人たちやホストファミリー含む家族たちに助けられてきた。
おかげでここまで生き延びることができた。そして今日49歳になった。天国の母より2つ歳上だ。
応援してくださっている全ての皆さんに感謝しております。
ここエドモントンにて毎日自分の舞台を行う一方、1日に4-5本の舞台を観ている。どれもこれもが美しく、とてもインスパイアされている。人間の美しさ、この世界の美しさを、フリンジでしか観られないたくさんの作品が教えてくれる。
今後も、自分の持っている全てを尽くして皆さんに恩返ししていきたい。そして、11歳のときに「はてしない物語」を読んでミヒャエル・エンデと交わした契約通り、これからも想像しつづけ、創作しつづけていきたい。
ヤノミ
ティナの思いやり
フリンジが終わった翌日、日曜も仕事をしているティナは午後に帰ってくると大急ぎでピクニックの準備をした。
私は午後に卵焼きを焼いて、かき氷用のイチゴシロップを手作りした。あのウィニペグで作ったジャムをベースに!
イチゴシロップの写真は撮り忘れた。
今日はティナのお母さんのバースデイ祝いのピクニック。ティナのお兄さんのダンと子どもたち(ミルズとロッズ)、そしてダンのパートナーとその子どもたち二人。
みんなで椅子やらテーブルやら食べ物やら飲み物やらいっぱい運んで、楽しく始まった。このピクニックの段取りを全て組んだのも、ティナだ。
「うちの家族はみんないつだってすぐ、家で過ごそうって言い始めるんだけど、そうするとみんな自分の部屋でそれぞれバラバラにいつも通り過ごしたりして、スペシャル感が全く出ないのよね。誕生日なんだから、家族が集まって特別な日にしたいじゃない?」と、ティナ。水遊びもできる広くて素敵な公園で、子どもたちも存分に遊べるようにと何日もかけて家族と連絡を取り、段取りをしてきた。
ダンはタトゥーのアーティスト。
パートナーは特別支援学校の先生。
カナダでは郵便局の職員や飛行機のCAさんでさえもタトゥーをしている。これまた日本では絶対にないことですね。
ちなみにカナダでは数年前からマリファナも合法化されている。
ティナがサプライズで用意したかき氷マシンで、かき氷を作る。子どもたちは大喜びだった。私のイチゴシロップも好評だった。
ティナのお母さん、キャロルは私のプレゼントであるちょっといいオリーブオイルをとても喜んでくれた。
2007年以来、ツアーをしていろいろな家に滞在し、いろいろな家族の中に入れてもらってきた。それぞれの家族にさまざまな歴史があり、繋がりがあり、心配事や難しい問題や、うれしいことや悲しいことがある。
それは日本でも海外でも、どの家族でも同じだ。
いつも踊りまくってエンターテイナー気質のロッズと、物静かなミルズ。本が大好きというミルズに「いつか物語を書いてみたいと思う?」と尋ねると、「うん、考えたことあるよ。」と。作家の星新一の話をして、「子どもだけじゃなくて大人にも大人気なんだよ、ショートショートと言って、短いものだと1ページで終わるお話もあるんだよ」と伝えると、ミルズはにわかに目を輝かせて興味を持っていた。
そのミルズは、私の卵焼きをとても気に入ってくれて「これ、とまらないよ。」といくつも食べてくれた。うれしいなあ。
家に帰ってから、ティナと二人で約束の「ホラー映画観賞会」を執り行う。これは2013年から我々のあいだで続いている伝統行事だ。私は普段はホラー映画など決して観ないが、ティナとだけ観ることにしている。
ダンおすすめの日本映画「オーディション」を観たが、全然面白くなくて二人ともがっかりだった。
その後、月曜の夜には「Malevolent」(邦題:呪われた死霊館)を観た。これはもうめちゃくちゃ怖くてなおかつ面白かった。ワインとチーズとフルーツなどを準備して、いろいろ言いながら観た。字幕がないため時々動画を止めて、ティナに説明してもらいながら観る。
さらに火曜には「ジェーン・ドウの解剖」というホラー映画を観た。これまた面白かった。
ティナは新しい仕事の面接の準備をしたり、その面接を受けたり、他の仕事をしたり、とにかく毎日とても忙しい。しかし、「今日があなたと過ごせる最後の日だから…」と、仕事を早めに切り上げて帰って来てくれたり、ふとした時に「今年は料理とか作ってあげられなくてごめんね…。あまりに忙しくて…。」と言ったりした。
私は何度かティナに料理を作ったが、どれも美味しいと食べてくれた。
そしてホラー映画を観終えていつものように「おやすみ。」と言う間際、ティナが「これ、早めのバースデイプレゼント。」とテーブルに置いてくれたのが、これ。
ツアーの邪魔にならないようにと、嵩張らない素敵なポーチを贈ってくれた。ホラー映画ではないけど、ホラー要素たっぷりのポーチ!
ありがとう、ありがとうティナ。
なんてうれしいプレゼント。そして覚えていてくれたんだね、私の誕生日を。大事にするね。
クールでシャイなティナは、あまり感情を表には出さないが、いつだって親切で、いつだって思いやりにあふれている。
彼女はいつも友人や家族や仕事仲間や近所の人や、あるいは知らない人の話にまでも真摯に耳を傾けている。素晴らしい聴き上手なのだ。誰かの話を1時間も聴いて、その本人は「聴いてくれてありがとう、じゃ!」とスッキリして立ち去る、ということもよくある。
聴き上手であることは、何よりの美徳だと思う。
そして私が出会ってきた素晴らしいアーティストは総じて良い聴き手でもある。自分のことをしゃべる以上に、相手の話に耳を傾ける。
私もいつもそうありたいと努めている。
今年の滞在では、これまで以上にティナとたくさんの話をした。ティナの悩みもたくさん聴いたし、人間関係や人生において抱えていることについても彼女の言葉をたくさん伝えてくれた。家族も友人も、私の話には興味がなくてぜんぜん聴いてくれないのよ、とティナが話してくれたことがある。私はいつも聴くばかり、と。
ビレットの多くは過去に受け入れたアーティストの名前すら覚えていなかったりするし、その逆も多い。ティナでさえも、私以外のアーティストの名前はほぼ覚えていないらしい。
だけど、私にとってティナは家族同様だし、私はほんとうに幸運だと思う。
ティナが撮ってくれていた授賞式の写真が、ティナの愛情を表していると思う。
千秋楽の打ち上げ時の写真。
荷造りのスーツケースに収まるブランチ。猫はいつだってスーツケースを気に入る。
別れの日、私はほんとうに悲しくて考えるのも嫌だった。
(余談だが、ウィニペグのタミーは私に「さよならは言わないよ。またすぐ来なさいよ。」とメッセージをくれて、私がちょっと席を外したあいだにいつも通り仕事へ出て行っていた。さよならをしない作戦だった。タミーらしいと思った。)
デイブが迎えに来てくれて、ティナは駐車場で見送ってくれた。
クールでシャイなティナはいつもの素っ気ない様子で「じゃあ、まあ次は9年も待たずにあなたが来てくれるといいけど。」と言った。
私は泣くまいとがんばったが、ハグをすると涙が出た。でも辛気臭いのはティナの好みではなかろうと思い、必死にこらえた。
歳も近く、私と同じように独身で子どももいないティナ。そしてアートや演劇や映画を愛し、子どもたちのための仕事をし、友人や家族を思いやるティナ。
この素晴らしい人と、また必ず再会できますように。
ティナ、ありがとう。
大好きだよ。
何もかも、ほんとうにありがとう。
カルガリーからエドモントンへ。
翌日、キッチンに置いた私のささやかなお礼のプレゼントとカードを見つけたティナは「そんなことする必要なかったのに!」とメッセージをくれた。
また会いに行くね。
それか、日本に来てよね。
ティナがこれからずっと、もっともっと幸せでありますように。
ヤノミ
ラジオ生出演、トリビアゲーム、子どもたち
ブログ書く暇もないくらい連日ギッシリのスケジュール。
ブランチとヤノミ。
ある夜にはフリンジのアフターダークと呼ばれる深夜のイベントにて、みんなでトリビアクイズに挑戦する。
チーム「くそったれ!」日本語の汚いことばがいいとリクエストされて、これにした。
テクのデイブ、ビレット(ホストファミリー)のティナ、アーティストのブルース、クンジ、そして私。それぞれにいろいろなオタクで、トリビアは真剣に盛り上がる。
私はほとんどクイズの意味もわからなかったが、トヨタに関するクイズと、サムソンに関するクイズでチームに貢献できた。
お客さんもスタッフもアーティストも参加して、楽しく盛り上がる。
合間にお互いの服を取り替えっこして遊ぶアミカとブルースとジョン・ベネット。
靴まで取り替えていた。
連日連夜、フリンジのために笑顔で働くプロデューサーのミッシェル、スタッフのアトリーナ。
我々チーム「くそったれ!」はタイで一位を獲得した。
水曜は早朝にタクシーでCBCのスタジオへ。
ラジオの朝番組に生出演。
ラジオご指定のタクシー。タクシー代も出してくれた。ありがとう。
待合室のラジオ。時刻が合っていなかった。
カナダの時計ってどれもこれも合っていないことが多い。
ディレクターさんと。
収録後、パーソナリティーと。
人形劇なのにラジオというシュールさだったが、丁寧にインタビューしてくれたのでなんとか無事に終える。ありがとう。番組名は「EyeOpener」だった。
お客さんがまた増えてくれますように。
かっこいい古い写真たち。
よく見かける鳥。
たった5個で10ドル(1200円)もした餃子。高い、高すぎる。
実際のシリアルキラーを題材にした「Cabaret of Murder」の女優たち。
ティナと甥っ子くんたち、そしてティナのお母さんのキャロルも観に来てくれた。
終演後すぐに、ロッズがティナに「10点ちゅう、10点まんてん!」と言ったそうだ。
何よりもうれしい!
ティナも「めちゃくちゃよかったよ〜〜!」とハグしてくれた。
正直でお世辞を言わないティナのことばなので、ほんとうにうれしかった。
この日もとても盛り上がり、演技も仕掛けも全てうまく行ったので、私は大満足だった。
おおむね連日満席で、トータル7ステージ中、3ステージがソールドアウトした。
小さなカルガリーフリンジにおいて、これは素晴らしいことだ。
デイブもちょいちょいミスをしつつも、いつも全力でサポートしてくれて、車で迎えに来てくれたり、動画や写真も撮影してくれた。
カメラマンとして多くのロックバンドのライブ撮影もしているそうだ。
とある日の終演後に、小さな女の子が見せてくれた絵。
客席に絵本や落書き帳を持ち込んでいる子どもたちも少なくない。子どもが飽きた場合に備えて、親御さんが持たせているのだ。
赤ずきんちゃんの演目の最中に、この女の子に話しかけたところ、彼女はとてもシャイでノートを膝に広げて黙っていた。「絵を描いているの?」と赤ずきんちゃんが尋ねたものの、彼女はじっと黙っていた。
そして終演後にそれを見せてくれたのだ。
どれもこれも素敵な絵!
特に2枚目の大きな歯をご覧あれ。私が白い小さな人形を操作する際に、歯でスティックをくわえていたのをちゃんと描写してくれたのだ。ありがとう。
おばちゃん、とってもうれしい。
またある日には、とある女性がティーンエイジャーらしき男の子を連れて来ており、終演後にこう話してくれた。
「私たち、9年前にあなたの『ケセランパサラン』を観たんです。エドモントンで。その時まだ息子はとても小さかったんだけど、それ以来ずっと『次はいつ彼女に会えるの?』と言い続けて。ようやく今日、観に来たんです。」
9年前の私のソロフィジカルコメディ「ケセランパサラン」を、今も覚えてくれている人たちがいる。非常に売れなくて苦戦に苦戦を重ねたツアーだったけれど、今も各地で「あのショーが忘れられない。」と言ってくださる方々がいる。中には「ケセランパサランを観て、自分もソロ作品を創ってみたいと思ったのよ。」と言ってくれた女性アーティストもいた。ナヤナというそのアーティストは昨年のオーランドでアワードを受賞し、すんごく面白い独創的なショーをやっていた。
マジシャンで今や大売れのキース・ブラウンも「あの蛍のシーンが忘れられない。あれは本当に美しいショーだった。」と言ってくれたことがある。
なんという幸せだろう。
腐らずにやって来てよかった。
フリンジバーのバーテンダー。いつもとても親切。
このバーテンダーの女性もフリンジのスタッフだと思われるが、私の楽日に「チケット予約しようとしたら、ソールドアウトで入れなかったの。残念だったけど、おめでとう!私はいつもポスターや情報じゃなくて、人を見てどのショーを観るか決めるの。だから遅くなっちゃったわ。あなたと毎日会って、素敵な人だからショーを観たいと思ったの。」と伝えてくれた。
ありがとう、ありがとう。
こんな出会いが、私のツアーを優しく支えてくれている。
終演後に缶バッジを置いてお客さんからチップをもらうのだが、その小銭をジャラジャラと数えてビールを買う私を、彼女はいつも穏やかに待ってくれるのだった。
「ロッキーホラーショー」ナイトのミッシェル。
衣装コンテスト。
大人気のカルト映画「ロッキーホラーショー」をみんなで鑑賞しつつ、歌ったりセリフを一緒に言ったり野次を飛ばしたりするイベント。
この夜にはジミーが私の演技に対して真面目なアドバイスをくれて、それもとてもうれしかった。サンキュー、ジミー!
ある日のブランチ。ティナの家でできる限り自炊している。これは米のヌードル炒めとバターナッツスクオッシュとマッシュルームのお味噌汁。
金曜は唯一のオフだったので、スパへ!
本当は友人たちとみんなで行く予定だったのに、みんなが突然予定を変更し、既に出発していた私は道中に連絡が取れず、結局ひとりでスパを楽しむことに。
1時間の全身マッサージもしてもらった。
疲労困憊の身体。
スパは思った以上にショボくて、小さな湯船が一つしかなくジェットバスもたいしたことなかった。そしてものすごく高かった。
だがもう、背に腹は換えられぬ、私には今これが必要なのだと言い聞かせる。
金持ちそうな人々がおおむねカップルで来ており、水着で手をつないでスパをうろうろしていた。
あ〜日本なら東京にだって天然温泉があって、1000円も出せばいくつもの種類のジェットバスや露天風呂だって楽しめるのに〜〜〜。こんな高くてショボいスパなんてよう!
よくいろんな人(主に日本人)から「ヤノミちゃんは海外に住もうとは思わないの?海外の方がいいんじゃないの?」と訊かれるが、私は拠点は絶対に日本がいい。
食べ物にしても治安にしてもお風呂にしても、あらゆるサービス業にしても、とにかく日本ほど特殊に洗練されていて便利なところはない。
ただ旅が好きなだけだ。
ともあれ、少しは身体が癒された。
路面電車のような、そうでないような、カルガリーの電車。
アルバータ州で最も大きい都市だというカルガリー。ダウンタウン。
高層ビルやタワマン的な建物も多い。年々すごい勢いで人口が増えているそうだ。
こちらはフリンジエリア。小洒落たお店の多い静かな街。
金曜に早くも楽日を迎えたジミーと、高級レストランでお祝いの食事。
ジミーは元々プロのシェフだったため、料理には非常にこだわりが強い。普段は自炊したり、ある程度リーズナブルなものも食べているらしいが、「いざ外食となったら、俺は金をかけていいものを食べるんだ。ケチケチしてゴミみたいなもの食べたくないんだ。だろ?
ツアーアーティストは自分を粗末に扱い過ぎるんだ。特に長いツアーになればなるほど、もっと自分を大事に扱わないといけないんだ。あ、でもおまえはスパとマッサージに行ったんだったな、いいことだ。」
豚バラの煮込みと北海道ホタテのグリル。
もちろん美味しかったが、これまた日本ならたぶん半分の価格でもこのレベルの料理を出すお店はたくさんある。やはり日本は特殊だと思う。
「ウィニペグ空港でゴミみたいなポテト食べてスタートして、このごちそうでカルガリーを終えられてよかったね〜!」と私が言うと、ジミーはゲラゲラ笑って「その通りだ!こりゃいい!いいか、物語の構造としても完璧だ。ゴミから始まりごちそうで終わる…、なるほどな…。」と喜んでいた。
後で聞いたらどうやら同い年だった。ジミーの方が早生まれだけどいわゆる学年が一緒。
彼は7ステージ中、6ステージをソールドアウトしていた。初めてのカルガリーで、フライヤーなど一枚も配らずにこの結果。すごいよなあ。
私のフライヤーは楽日前の木曜にようやくUPS窓口で引き取り、まったく役に立たなかった。
払い戻しを要求しているが、どうなるかわからない。そういうところだぞ、カナダ。
およそ1万円もが無駄になりそうだ。恐ろしい。
いつも乗るバス停。
明けて土曜日。カルガリーの千秋楽。
子ども向けのショーだと思ってティナと甥っ子くんたちと一緒に観に来たら、私の誤解でそれは子どもたちが上演する舞台だった。サマーキャンプの一環で、2時間半で作った劇らしい。
でもかわいくて面白かった。
ティナたちとアイスクリーム食べたりゲームして遊んだり古本屋に行ったりして過ごす。
ティナのお母さんのお誕生日プレゼントも探しに行って、ちょっと良いオリーブオイルを見つけた。
そして自分の千秋楽。
一つ前のポールのショーもお客さんがものすごく静かだったようで、ポールは明らかに落胆していた。ここカルガリーではポールの集客はあまり伸びず、同じベニューの私やジミーはソールドアウトを出していたのに、なぜなのかと再び私はわからなくなる。
昔から感じているが、ショーの良し悪しに関係なく、興行成績というのはおおむね「運」なのではないだろうか。
たとえば今年のカルガリーでは人形劇は私の作品ただ1本だけだった。これは大きく有利だと言えるだろう。他に同じジャンルのものがないのだから。
ウィニペグでも人形劇は私のを入れて2本しかなく、他は望ノ社の影絵だけだった。それは単にたまたまそうだっただけで、ある年には人形劇が同じフリンジにいっぱいあったりもする。ソロ作品はいつだって多いけれど。
もちろんアーティストとしてあらゆる努力は必要不可欠だが、全然面白くない作品が馬鹿売れすることだってたくさん観てきたし、素晴らしい作品が全然売れない様子も嫌というほど観てきた。
ちなみに2015年の私は、エドモントンにて3000枚のフライヤーを自力で配っている。それでもフルハウスが一度あったかどうかだ。
私のカルガリーでの千秋楽は数日前にはソールドアウトしていたが、予想通り、非常に静かなお客さんたちだった。でもこれまた経験上、静かだからと言って彼らが楽しんでいないわけではないことも知っている。
丁寧に大事に最後までやり遂げる。
するとやはり終演後にはたくさんの人が素晴らしい感想を伝えてくれたし、チップもたくさん入れてくれた。
ポールとエリカが戻って来てくれて、フリンジのスタッフやボランティアもたくさん手伝ってくれて、バラシをする。そしてデイブは私にカルガリーの公演の動画と写真のデータをきちんとまとめてUSBメモリに収めて渡してくれた。
ありがとう、デイブ!
「静かな千秋楽を祝って!」とみんなで記念撮影。(私だけ夕陽が当たっていっそう黄色い。)
ポールとエリカがいなければ、私はこのベニューでこんなにちゃんとした照明や音響で公演することはできなかった。感謝してもしきれない。
彼らはいつも私の些細な質問にも熱心に耳を傾け、楽しく教えてくれ、力を貸してくれる。いつかどうしても日本に呼びたいアーティストたちだ。
近くのお店でティナとデイブと軽い打ち上げ。
チーズのフライ。
右はソーセージロールというパイみたいなやつ。
ナチョ。
そして今年最後のイベント、GameShow 33へ。
繰り広げられるさまざまな馬鹿馬鹿しく楽しいゲーム。会場はアーティストやスタッフやボランティアでいっぱいで、そりゃもう盛り上がった。
その後、休憩を挟んで授賞式。
カルガリーでは真面目な授賞式はなく、冗談半分のかわいく楽しいアワードが発表される。
働きに働いてくれた、フリンジのメインスタッフたち。
ここで私は「最も良い人だったで賞」を受賞した。
美醜を競ういわゆるミスコンのパロディで、見た目ではなく中身が美しいという意味だそう。いつも誰に対しても優しく親切で、あたたかい人に送られるとのことで、おそらくどんな賞よりも天国の母が喜ぶ類のものだと思われる。
お母さん、娘を誇りに思ってくだされ。
同じ賞を受賞したサミュエルと二人で壇上に上がり、「ハグ!ハグ!」という歓声の中でスタッフたちにハグをしていたところ、ティナのそばにいた人たちが「こりゃ永遠に終わらないぞ、彼らのアワードは最後に発表すべきだったよ!」と冗談を言っていたそうな。
Mrs. Congenialityのちいちゃいカップと缶バッジ、そしてドリンクチケットもついていた。最高。
サミュエルとティナ。
俺だってアワードもらえる資格あると思うけど、とぼやくジョン・ベネットに、素晴らしきクラウンのジェームズがカバンをゴソゴソして何やら私物を取り出し、「ジェームズ賞をあげよう!」と授与していた。
かわいいアーティストたちよ。こういうところがフリンジの美しさだ。
たっぷりビール飲んで、みんなといっぱいしゃべって、ハグを交わして、「またきっとカルガリーに戻って来てよね!」と言ってもらい、幸せな気持ちでカルガリーフリンジを終えた。
次はいよいよ北米最大のフリンジ、エドモントン。
日々日々、たくさんの準備に追われている。
どうか良い公演になりますように。
ありがとう、カルガリーフリンジ。
ありがとう、助けてくれたみんな。
ありがとう、観に来てくださった全ての皆さん。
そしてありがとう、日本から、世界のいろんなところから応援してくださる全ての皆さん。
ヤノミ
カルガリー初日そして
迎えた土曜日。いよいよカルガリー初日。
そしてティナが誘ってくれたので、人生初のペディキュアの日!
私が一度もペディキュアをしたことがないと言うと、みんな一様に驚いていた。
舞台の役柄でマニュキュアをしたことはあるものの、ペディキュアなんて一度も…。
48年間…。
ティナと友人のドリスも一緒。
すんごい数のマニキュアが並ぶ。
マッサージチェアに座り、足湯から始まり爪の手入れ、角質ピーリング、マッサージ、とにかくいろんな施術をしてくださる。申し訳ないくらいです…。
犬も走り回っている店内。荷物は床に置くシステム。
ティナ撮影。くつろぐヤノミ。マッサージチェア最高。
左が私の足。薄いピンクのラメ入り。
近くのタピオカミルクティーのお店で軽食など食べて、ギリギリの時間にティナが劇場まで送ってくれた。
「今日あなたのショー観ようかな。」と言うティナ。
ところが!
準備を始めたところすぐにフリンジのスタッフが「ソールドアウトよ!」と報告してくれた。
なんとなんと!!!
11年ぶりのカルガリーで、ソールドアウト!!!
これまた2013年のミスしゃっくりのときは、何をどう頑張っても集客が少なく、途方に暮れたというのに!
そして今年はなんたることか、ウィニペグ滞在中に発注したフライヤーが全然届かない。このブログを書いている現在、8月7日になってもまだ届いていないのだ。
つまりフライヤリングを全くできていない。
にもかかわらず、事前にはるちゃんが協力して送ってくれたプレスリリースが功を奏し、カルガリー到着以前にはCBCラジオ局からインタビューの申し出があった。また、フリンジプロデューサーのミッシェルがメインメディアの一つであるカルガリー・ヘラルド紙のインタビューで国際アーティストの一人として私のショーについても言及してくれたため、写真入りで記事に取り上げられた。
その記事はこちら。
ありがたいことだ。
ティナにも慌てて連絡し、ソールドアウトを伝える。ティナからは「マジで?!すごいじゃない!よかったね」と返事が来た。
テクのデイブと二人で、いいショーをやろうねと言い合う。
本番前はどんなところでも緊張する、特に新しい土地の新しい劇場の新しいテクと新しい観客の待つ本番前は。
落ち着いて、丁寧に、と自分に言い聞かせる。
満席で迎えた初日だが、びっくりするほど観客が静かで、私は徐々に不安になった。終演後にはいろいろなお客さんが私に声をかけては感動を伝えてくださったのだが、それでもやはり不安は消えなかった。
やはり内容を少し変更する必要があるのではないだろうか。
ウィニペグでも公演期間の後半数日は驚くほど静かなことがあり、どうしたものかと思案していた。
後にポールも自身の本番の客席がとても静かで、盛り上げるのに時間と労力がかかって大変だったと話してくれた。ヤノミだけじゃないよ、と。そしてポールにも協力してもらって、とあるセリフを追加することにして2日目はそれを試してみた。
悪くない反応だったものの、やはり自分としてはあまり納得のいく結果ではなかった。
これはもう観客に合わせて思い切って内容を変えるしかない。
3日には一部内容をカットして、新たなネタに差し替え、さらに開演前に短い前説を入れることにした。
ちなみに2日目はまあまあ満席、3日目は何人か入れずに帰らされたほど完全なソールドアウトだった。
友人たちもまだまだ観客が少ない中、私のソールドアウトの知らせを聞いて、「またかよ!すごいな!おめでとう〜!」と言ってくれた。私のショーを観ようと駆けつけてくれたアーティスト仲間たちも、「入れなかったよ〜!次のを予約するよ!」と言ってくれた。
昔からのアーティスト仲間や新しい友人たちもSNSで私のショーの宣伝を自発的にしてくれている。とってもとっても恵まれた環境だ。
良いショーをしなくては。
進化し続けていかなくては。
迎えた3日目。
新たに加えた前説がバッチリはまり、開演直後からハッピーな笑いが次々に聴こえた。そしてようやく納得の行く反応に包まれてショーは無事に幕を閉じた。
変えてみてよかった。チャレンジしてみてよかった。
こうして進化していくのだ。作品も、自分も。
この経験は確実にまた自分を成長させたと思う。
そんな合間にも、初日の夜にはフリンジのアフターダークと呼ばれるキャバレーショーにゲスト出演し、ゲームなどに参加した。アミカとブルース、そして日系カナダ人のダンサーで友人のクンジも一緒だった。
最後のアピールタイムで私は観客に足を見せて「人生初のペディキュアだよ!私の人形劇とは全く関係ないし、本番でみんながこれを見ることはできないけれどね。」と話し、みんなゲラゲラ笑ってくれた。
そしてその日にティナと一緒に観た即興劇「Wuthering Frights」についても素晴らしかったので観に行ってねと宣伝したところ、そのカンパニーのみんなからもとても喜ばれた。
まるでミスしゃっくりのような花をかぶったミッシェル。いつも美しい笑顔。
クレイジーハットデイのミッシェル。
スタッフのタマラ。彼女もいつもすごーく親切で明るい。
アジアスーパーで買った味噌で、お味噌汁。ウィニペグでまゆみちゃんがプレゼントしてくれたインスタントごはんがありがたい。
箱入り娘のブランチ。
こちらは日曜の夜に開催された、ポエトリースラム。
私はこのイベントが大好きで、昔から各地でポエトリースラムを観ている。
フリンジではなく別の団体が主催しているもので、一般の誰でも参加できるもの。
それぞれ3分以内で詩の朗読を披露していく。
たった3分なのに、時には涙がこぼれるほど感動することもある。
詩のちから、ことばのちから。
スマホで詩を読みながら披露する人もいれば、完全に暗記して全身で表現する人もいる。基本的には自分自身の体験に基づく詩が多く、それぞれの人生や生活に根ざしたことばが生々しく語られる。
ティナはこれを観てインスパイアされ、「私も書いてみようかな…。」と言っていた。
ティナ!ぜひやるべきだよ!
丸まって眠るブランチ。
シャッター音で目覚めるブランチ。
フリンジの近くのピザ屋で買ったピザと、フリンジバーのビール。
ジミーが観に来てくれて「よかった!」と褒めてくれたり、エリカとポールが何度も観にこようとして入れなくて「エドモントンで観るよ!ヤノミが売れていてほんとうにうれしい。」と言ってくれたり、毎日毎日、心がいっぱい動く。
デイブは車で私の家まで迎えに来てくれたり、手作りのお菓子を差入れしてくれたり。
カルガリーには大きな嵐が来て、各地で大きな雹の被害が出たり。
バスに乗っていたら床下からバシャアアアアンン!と水しぶきが車内に飛び散ったり。
ティナと人生の様々な思いについて語り合ったり。
毎日、心がいっぱい動く。
そして迎えた4日目、火曜日。前売り状況はそれほど良くなかったものの、やはり他のカンパニーに比べると相当いいと聞く。そしてこの日は11名ものアーティストが観に来てくれた。私の前に本番を終えたジミーが、いつもの毒舌口調で「いいか、おまえ、絶対に失敗するんじゃねえぞ!わかってんのか?!」と、独自の励まし方をして去って行った。
(ちなみにジミーは私の白い小さな人形の演目が好きだったと言ってくれた。)
デイブが「客入れのときから今日はいいぞと思ったんだよ!」と言う通り、この日はウィニペグを含め今年のツアーで最も素晴らしい反応があった。
会場は笑いに笑い、どこもかしこもビビッドなリアクションで、カーテンコールではスタンディングオベーションがあった。終演後にもたくさんの人が「素晴らしかった!」「見事だった!」「ありがとう!」とハグをしてくれた。
ようやく、自分の欲しかった初日が出た。
ここからまたエドモントンやバンクーバーに挑んでいける。
恵まれた幸運にあぐらをかかずに、真摯に地道に磨いていこう。
いつもベストを尽くしていこう。
そんなわけで、休む暇がまったくない。
そろそろ身体もアレだけど、なんとか頑張ろう。
足の爪も輝いていることだし。
ヤノミ
ヘリテージパーク歴史村とフラクション・オブ・フリンジ
金曜日。ティナがカルガリーの遺産公園(Heritage Park)に連れていってくれた。午前中に仕事があったティナと待ち合わせのため初めて電車に乗って行った。いつもバスだったので、カルガリーの電車に乗るのは初めてかも。
どんなことでも「人生初めて」は楽しい。
子どもの頃は何もかもが「人生初めて」だけど、本人にはその自覚がない。大人になると「人生初めて」は減っていくけれど、意識すれば実はたくさんあるものだ。
初めて買う切符、初めて降りる駅。
さて、ヘリテージパークはカルガリーの1860年代から1950年代あたりの歴史を再現した壮大な歴史村。古い時代の建物や、実際に使われていた物などが村中に展示されており、当時の洋装をしたキャストが案内してくれるという。
ウィニペグのパーカーを着て記念写真。タミーにちゃんと写真を送ったよ。
ワゴンに乗って移動。
機関車も走っている。
昔の鍛冶屋。このおじいさんがちゃんと働きながら、いろんな説明をしてくれる。
かっこいい。
職人さんが使う道具って、どのジャンルでもかっこいいよねえ。
サマーキャンプの一環で団体で見学に来ている子どもたちは、このように当時の衣装を着て歩いていたりする。すごく素敵。
まさしく、私の大好きな赤毛のアンの時代そのまま。ああ、胸が、ドキドキするぅ…!
カナダそのものの歴史は日本に比べるととても短く、1600年代にヨーロッパ人が移住し始めて作られたと聞く。もちろんその前から原住民がいて、彼らには多くの非道な仕打ちがなされ、現在も重い問題が残っている。ここ数年、北米フリンジの世界では原住民(indigenes)の存在や文化を尊重する動きが加速している。
ウィニペグのホーボーヒルトンに保護されているラケルも、原住民のひとりだ。
そして原住民だけでなく、カナダに移住して来たアジア人たちにも暗く重い歴史がある。
私はそのことをほとんど知らずにいた。今年になってようやく少しずつそのことを学びつつある。
実際に存在した中国人の経営するクリーニング店。
重労働で、いわゆる3Kだったこの職に就きたがるカナダ人はいなかったため、社会階層の低い中国人たちがクリーニング店を経営し、一族で労働していたという。
ここのスタッフさんたちも中国系カナダ人で、詳しく説明してくださった。
クリーニング店だけでなく、たとえば鉄道を敷く労働に就いていた場合でも、他の民族の賃金の4分の1程度しか支払われなかったそうだ。
原住民だけでなく、アジア人へのこうした差別は歴史上多くあり、もちろんカナダに移住した日本人にもたくさんの苦難があった。それをウィニペグとカルガリーで少しずつ知り始めた。
クリーニング店の作業場。
中国人の居住部屋のようす。
こちらは歯医者さんの再現。窓から覗いて思わず「ぎゃあ!」と叫んだ。
気味の悪い人形がいてびっくりしたわ。
こちらは郵便局。ちゃんとここから郵便が出せる。
そんなわけでいくつか絵葉書を購入。近くの学校で葉書を書くことにした。
学校。
まるでアンが通っていた学校のよう。
ちゃんと女性の先生がいて、やって来た子どもたちに課題を与えたりして授業をするのがまた面白い。そしてなんとこの先生は少し日本語も話せた。
この村にいるキャストはみんな、それぞれの役割をちゃんと演じているそうだ。村を歩いているとそれらの村人から話しかけられたり、頼み事をされたりもするらしい。
医者が走って機関車を追いかけて、「ああ、間に合わなかった。次の列車は3日後だってのに!」などとぼやいたりするとか。
この日はティナの甥っ子くんたち二人と、ティナのお母さんキャロルと一緒に行った。
後ろで見守るティナとキャロル。
無事に絵葉書を書き終えて、郵便局のポストに投函。
さて、どなたに届くでしょう。
馬車も走っている。
湖のボートにも乗った。この日はとても暑かったが、水の上にいると涼しかった。
そして機関車にも乗る。
フォーー!フォーー!!と威勢よく汽笛を鳴らして走る機関車で、ヘリテージパークをぐるりと回りながら、なんとも不思議な気持ちになる。まさしくタイムスリップしたような…。
カナダを代表する大きなヘラジカ。2015年に野生のヘラジカに出くわしたこともある。
憧れの動物。
お次はホットドッグ。
キャロルがごちそうしてくれた。ありがとう!
ティナの甥っ子、ミルズとロッズともおしゃべりして仲良くなり、みんないっぱい歩いていっぱい遊んだ。小さな遊園地もあり、いくつか乗り物にも乗れた。
私はジェットコースター系は苦手なので、子ども用の怖くない乗り物でもじゅうぶんにスリル満点でありました。
わあわあ叫ぶ私を、ティナは冷静に面白そうに動画に撮っていた。
半日ずっと日光に晒されて歩いて、もうくたくた。
しかし!
この夜はフリンジでも最も重要なイベントの一つ「Fraction of Fringe(フリンジのひとかけら)」が開催される。
各地のフリンジで名称は違えどもおなじみのイベントで、各アーティストやカンパニーが短い予告編を次々と上演するもの。ここカルガリーでの持ち時間は90秒。
(ちなみにウィニペグにはこのイベントはなかった。)
この予告編イベントの出来次第で、観客が作品に興味を持ってチケットがより売れる可能性もあるし、下手をすると悪印象を与える場合だってある。
超超重要な最初のイベントである。
21:45開演のため、それまで周囲の町にポスターを貼って歩く。
こちらが私のベニュー。Alexandra Centre。人形と衣装をピックアップして、ポールのショーを観る。
ポールほど優しい人もそうそういないというくらい、人情にあふれ愛情に満ちた人。
トレーラーハウスで育った貧しい家の出身の彼は、幼い頃から物語を作って遊んでいたという。そして今や、アメリカを代表するストーリーテラーの一人なのだ。
美しく、奇想天外で、そしていつもどこか優しい、奥行きと深さを持つ物語の数々。
観客に合わせて毎日異なる物語を語っている。彼のことも、そしてパートナーのエリカのことも、すごく尊敬している。ちなみにエリカもまたアワードを数々受けてきた一流のアーティストである。
アジア食品のスーパーも見つけた。
このお店にポスターを貼ってもらえないか尋ねたところ、なんと店員の男性が日本語で話しかけてくれた。韓国の出身でカルガリー在住、そして幼い頃に日本に住んでいたことがあるそうだ。
しばらく話してとてもうれしい気持ちになる。
店内で味噌も見つけたので買った。これでお味噌汁が作れるぅ〜!
メイン会場であるFestival Hallには、続々と観客とアーティストが集まっていた。
私は緊張しつつもトイレで衣装に着替え、オープンを待つ。
今日やる演目は90秒のため、何度も練習を繰り返してタイムを計る。無事にできますように!!!
客席で待つ間も、隣に座ったアーティストたちと自己紹介をし合ったり、あちこちで挨拶が交わされる。
18本の作品が次々と紹介され、地元アーティストたちがホストを務める中、賑やかに盛り上がって行った。
当事者としては緊張するものの、この予告編イベントはフリンジの中でも私が大好きなものの一つだ。フラッシュライトキャバレーとは違って、それぞれが自分の作品について語り、演じ、アピールをしていく。それを90秒ずつ観られる贅沢。
どれもこれも本当に面白いのだ。
そして私の出番。
会場は赤ずきんちゃんの発言にたっぷりと笑い、大きくリアクションし、予想をはるかに超えるいい手応えがあった。終わるとたくさんの友人たちが「Good job!」「ヤノミ、よかったよ〜!」と肩を叩いてくれた。
ほっ。
全員がステージに上がってフィナーレ!ヤノミはどこかわかるかな?
ブルースとアミカの天才デュオは、諸事情により実際の演目とは全く別の、先日のカウバレー(牛にまつわるキャバレーショー)の一コマを披露し、「これは我々の本番のショーとは全く関係ありません。」とアナウンスして爆笑を生んでいた。そして牛たちの破天荒ぶりに、会場は沸きに沸いた。
ホストたちも笑いのあまり、しばらく進行が中断したほどだった。「いやほんとに、5分待ってくれ!」とかなんとか。
さすがだよ〜!最高だよ〜〜!!
アミカ、ブルース、天才。
大好きなアーティストたちに囲まれて、いよいよ明日が初日。
大荷物抱えて、バスを2本乗り継いで、ドキドキしながら帰る。
ヤノミ