ティナの思いやり | 小心記

ティナの思いやり

フリンジが終わった翌日、日曜も仕事をしているティナは午後に帰ってくると大急ぎでピクニックの準備をした。

私は午後に卵焼きを焼いて、かき氷用のイチゴシロップを手作りした。あのウィニペグで作ったジャムをベースに!

 

 

 

 

イチゴシロップの写真は撮り忘れた。

 

今日はティナのお母さんのバースデイ祝いのピクニック。ティナのお兄さんのダンと子どもたち(ミルズとロッズ)、そしてダンのパートナーとその子どもたち二人。

 

みんなで椅子やらテーブルやら食べ物やら飲み物やらいっぱい運んで、楽しく始まった。このピクニックの段取りを全て組んだのも、ティナだ。

 

「うちの家族はみんないつだってすぐ、家で過ごそうって言い始めるんだけど、そうするとみんな自分の部屋でそれぞれバラバラにいつも通り過ごしたりして、スペシャル感が全く出ないのよね。誕生日なんだから、家族が集まって特別な日にしたいじゃない?」と、ティナ。水遊びもできる広くて素敵な公園で、子どもたちも存分に遊べるようにと何日もかけて家族と連絡を取り、段取りをしてきた。

 

 

 

 

 

ダンはタトゥーのアーティスト。

パートナーは特別支援学校の先生。

カナダでは郵便局の職員や飛行機のCAさんでさえもタトゥーをしている。これまた日本では絶対にないことですね。

ちなみにカナダでは数年前からマリファナも合法化されている。

 

 

 

ティナがサプライズで用意したかき氷マシンで、かき氷を作る。子どもたちは大喜びだった。私のイチゴシロップも好評だった。

 

 

 

 

ティナのお母さん、キャロルは私のプレゼントであるちょっといいオリーブオイルをとても喜んでくれた。

 

2007年以来、ツアーをしていろいろな家に滞在し、いろいろな家族の中に入れてもらってきた。それぞれの家族にさまざまな歴史があり、繋がりがあり、心配事や難しい問題や、うれしいことや悲しいことがある。

それは日本でも海外でも、どの家族でも同じだ。

 

いつも踊りまくってエンターテイナー気質のロッズと、物静かなミルズ。本が大好きというミルズに「いつか物語を書いてみたいと思う?」と尋ねると、「うん、考えたことあるよ。」と。作家の星新一の話をして、「子どもだけじゃなくて大人にも大人気なんだよ、ショートショートと言って、短いものだと1ページで終わるお話もあるんだよ」と伝えると、ミルズはにわかに目を輝かせて興味を持っていた。

 

そのミルズは、私の卵焼きをとても気に入ってくれて「これ、とまらないよ。」といくつも食べてくれた。うれしいなあ。

 

家に帰ってから、ティナと二人で約束の「ホラー映画観賞会」を執り行う。これは2013年から我々のあいだで続いている伝統行事だ。私は普段はホラー映画など決して観ないが、ティナとだけ観ることにしている。

ダンおすすめの日本映画「オーディション」を観たが、全然面白くなくて二人ともがっかりだった。

 

その後、月曜の夜には「Malevolent」(邦題:呪われた死霊館)を観た。これはもうめちゃくちゃ怖くてなおかつ面白かった。ワインとチーズとフルーツなどを準備して、いろいろ言いながら観た。字幕がないため時々動画を止めて、ティナに説明してもらいながら観る。

さらに火曜には「ジェーン・ドウの解剖」というホラー映画を観た。これまた面白かった。

 

ティナは新しい仕事の面接の準備をしたり、その面接を受けたり、他の仕事をしたり、とにかく毎日とても忙しい。しかし、「今日があなたと過ごせる最後の日だから…」と、仕事を早めに切り上げて帰って来てくれたり、ふとした時に「今年は料理とか作ってあげられなくてごめんね…。あまりに忙しくて…。」と言ったりした。

 

私は何度かティナに料理を作ったが、どれも美味しいと食べてくれた。

 

そしてホラー映画を観終えていつものように「おやすみ。」と言う間際、ティナが「これ、早めのバースデイプレゼント。」とテーブルに置いてくれたのが、これ。

 

 

ツアーの邪魔にならないようにと、嵩張らない素敵なポーチを贈ってくれた。ホラー映画ではないけど、ホラー要素たっぷりのポーチ!

ありがとう、ありがとうティナ。

なんてうれしいプレゼント。そして覚えていてくれたんだね、私の誕生日を。大事にするね。

 

クールでシャイなティナは、あまり感情を表には出さないが、いつだって親切で、いつだって思いやりにあふれている。

彼女はいつも友人や家族や仕事仲間や近所の人や、あるいは知らない人の話にまでも真摯に耳を傾けている。素晴らしい聴き上手なのだ。誰かの話を1時間も聴いて、その本人は「聴いてくれてありがとう、じゃ!」とスッキリして立ち去る、ということもよくある。

 

聴き上手であることは、何よりの美徳だと思う。

そして私が出会ってきた素晴らしいアーティストは総じて良い聴き手でもある。自分のことをしゃべる以上に、相手の話に耳を傾ける。

私もいつもそうありたいと努めている。

 

今年の滞在では、これまで以上にティナとたくさんの話をした。ティナの悩みもたくさん聴いたし、人間関係や人生において抱えていることについても彼女の言葉をたくさん伝えてくれた。家族も友人も、私の話には興味がなくてぜんぜん聴いてくれないのよ、とティナが話してくれたことがある。私はいつも聴くばかり、と。

 

ビレットの多くは過去に受け入れたアーティストの名前すら覚えていなかったりするし、その逆も多い。ティナでさえも、私以外のアーティストの名前はほぼ覚えていないらしい。

だけど、私にとってティナは家族同様だし、私はほんとうに幸運だと思う。

 

ティナが撮ってくれていた授賞式の写真が、ティナの愛情を表していると思う。

 

 

 

 

 

千秋楽の打ち上げ時の写真。

 

荷造りのスーツケースに収まるブランチ。猫はいつだってスーツケースを気に入る。

 

別れの日、私はほんとうに悲しくて考えるのも嫌だった。

(余談だが、ウィニペグのタミーは私に「さよならは言わないよ。またすぐ来なさいよ。」とメッセージをくれて、私がちょっと席を外したあいだにいつも通り仕事へ出て行っていた。さよならをしない作戦だった。タミーらしいと思った。)

 

デイブが迎えに来てくれて、ティナは駐車場で見送ってくれた。

クールでシャイなティナはいつもの素っ気ない様子で「じゃあ、まあ次は9年も待たずにあなたが来てくれるといいけど。」と言った。

私は泣くまいとがんばったが、ハグをすると涙が出た。でも辛気臭いのはティナの好みではなかろうと思い、必死にこらえた。

 

歳も近く、私と同じように独身で子どももいないティナ。そしてアートや演劇や映画を愛し、子どもたちのための仕事をし、友人や家族を思いやるティナ。

この素晴らしい人と、また必ず再会できますように。

 

ティナ、ありがとう。

大好きだよ。

何もかも、ほんとうにありがとう。

 

カルガリーからエドモントンへ。

翌日、キッチンに置いた私のささやかなお礼のプレゼントとカードを見つけたティナは「そんなことする必要なかったのに!」とメッセージをくれた。

 

また会いに行くね。

それか、日本に来てよね。

 

ティナがこれからずっと、もっともっと幸せでありますように。

 

 

ヤノミ