アカデミー賞の授賞式、楽しく観ました!

ドレスのことや授賞式のあれこれも書きたいのですが、なかなか時間が取れず…。
(そのうち書けたらいいなと思ってます。)

でも、授賞式の前日(3月3日)に滑り込みで観た『ブルータリスト』については、忘れないうちにレビューを書いておきますね。

もう一週間以上経ってしまいましたが、やっぱり映画館で観る映画はいいなぁ〜と、久しぶりに強く思わせてくれる作品でした。
「もっと映画館に行こう!」と改めて感じさせてくれた一本です。

 

ブルータリスト(2025)

 

 

「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディが主演を務め、ホロコーストを生き延びてアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家の数奇な半生を描いたヒューマンドラマ。2024年・第81回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、第97回アカデミー賞でも主演男優賞ほか3部門を受賞した。

ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートは第2次世界大戦下のホロコーストを生き延びるが、妻エルジェーベトや姪ジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためアメリカのペンシルベニアに移住した彼は、著名な実業家ハリソンと出会う。建築家ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築を依頼。しかし母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には、多くの困難が立ちはだかる。(映画.com)

 

 

 

感想

 

オーストラリアでは、アカデミー賞候補の映画が授賞式の数ヶ月前に公開されるので、この作品も危うく見逃すところでした。


でも、まだ上映している映画館を発見!


それが、1940年代に設立された「The Piccadilly」。とても素敵にリノベーションされて、2022年12月に再オープンしたばかりという劇場だったので、最高にラッキーでした。

 

まるで昔のゴージャスなハリウッドスターがレッドカーペットから登場してくるような、ノスタルジックな雰囲気の劇場。
それなのに、音響設備は最新!


大きなシネコンがアニメやインド系映画などで頑張っている時に、こんな素敵な場所で良い作品が観られるなんて、本当に嬉しいです。

 

さて、そんな趣のある建築様式の劇場で鑑賞したこともあってか、『ブルータリスト』は素晴らしい映画体験になりました。

 

この作品は、ハンガリー系ユダヤ人建築家、ラースロー・トートの約30年にわたる半生を描いた物語です。

 

(余談ですが、私の知人にもハンガリーからオーストラリアに移住してきた方がいて、同じく「László(ラズロ)」という名前なんです。母国では資産家だったそうですが、やはり厳しい過去があったと聞きました。ちなみに、発音は「ラーズロー」ではなく「ラズロ」。英語読みだからでしょうか?)

 

母国での名声も資産もキャリアもすべてを失い、新しい国で一から始める──その困難は、想像を絶するものだったのではないかと思います。

 

この映画の主人公は実在の人物ではありませんが、まるで本当にあった出来事のように感じられるリアルな演出が印象的でした。

 

ホロコーストの生存者という設定ですが、彼に何があったのか──その詳細はまったく描写されていませんでした。

 

車椅子の奥さんも、口をきかない姪っ子も、そして薬物依存の主人公自身も…。
彼らがどんな経験をしてきたのか、何ひとつ語られないのです。

そのことに、最初は不思議な感覚を覚えました。


ですが、後から映画評論家・町山さんのYouTubeを観て、それが意図的な演出だとわかりました。

 

「語らない」ことで、私たちはアメリカ人実業家ハリソン家族と同じ目線で、主人公たちを見る立場におかれるのですね。

 

ラースローの30年にわたる人生も、すべてが語られるのではなく、特定の出来事だけが切り取られて提示されていく…。
これは、ヨーロッパ的な映画の構成方法なのだそうです。

 

その「ぶつ切り感」は特に後半で顕著になりますが、その荒々しさが、ブルータリズムの建築様式と見事にマッチしているのだと感じました。

 

このような映画は、いわゆる一般大衆向けというより、アートハウス的な作品。
それだけに、町山さんの解説動画も1時間半に及んでいます。
私もまだすべてを観終わっていないのですが、このレビューを書くにあたって、とても参考になりました。

 

とはいえ、インターミッションに入る前までの前半は、気持ちがどんどん昂ぶっていくような感覚があり、とても興味深く観ることができました。
物語に素直に引き込まれた、そんな時間でした。

 

やっぱり、エイドリアン・ブロディはこういう作品が本当に上手いですね!

 

音楽も、作曲賞を受賞したのが納得の素晴らしさ。
ブルータリズム建築と映画のテーマにぴったりで、あの旋律なしではこの映画を語れない、とさえ思います。

 

後半は物語が下降していき、つらい出来事が次々と起こるため、もう少し丁寧に描写してほしかった…と感じました。
「このストーリーを3時間半に収めるために、カットされた映像があったのでは?」と邪推もしてしまいましたが、あの「意図的な切り取り」だと考えれば納得です。

 

ところで、監督のブラディ・コーベットは『Vox Lux』(邦題『ポップスター』)の監督でもあるそうですね。
こちらもナタリー・ポートマン、ジュード・ロウと豪華キャストながら、一筋縄ではいかない作品だった記憶があります。
今あらためて観直したら、この監督の目指すところや作家性が、もっとわかるかもしれません。

 

レビューはこちら

 

『ブルータリスト』は、スタイリッシュで見応えのある作品だったので、今度は配信でもう一度観て、一度目では理解しきれなかった部分をじっくり確認したいと思っています。

 

アカデミー賞主演男優賞は、密かにティモシー・シャラメくんの受賞を願っていましたが、エイドリアン・ブロディの受賞は納得の結果でした。

星は、★4つ半です!

 

こういった大人の鑑賞に耐えうる、見応えのある劇場映画が、これからももっと作られることを願っています。