歌謡界とフォーク
『芸能界は、とても厳しい所だ』
デビューする前、よくこんな言葉を目にしたり、耳にしたりしました。
テレビで『輝け!今年の上半期なんとか賞』なんていう番組を見ていると、蝶ネクタイをした司会の男の人が、必ずこういうのです。
『今年デビューした新人は、四○○人いるそうで、このステージに立てるだけでも、大変なことなのです。さァ、その中からだれが最優秀新人賞を獲得するか、みなさん、がんばってくださいね』
毎年毎年、たくさんの新人がデビューする、いろんな分野で、それぞれのパーソナリティを持って、その中からアイドルになっていく人は、本当に限られた人たちだけ。しかし、みんな、その首位の座を狙って、がんばっている。
本屋さんで何気なく雑誌をめくると、必ずどこかに、“スター”と呼ばれる人の記事が載っています。それが、アイドルと呼ばれている人は必ず『睡眠時間は四、五時間です』と書かれている。思わず感心してしまう。
以前、ピンクレディーのインタビューで『二、三時間ぐらい』という記事を読んだことがあるけど、たったそれだけの睡眠時間で、よくあれだけ働けるなァと、驚愕したのです。というよりは、かわいそうだなって思う気持ちのほうが強かったかな。
ちなみに私の睡眠時間は、最低でも六、七時間。とにかく、寝ることが好きで、ひどい時には一日中寝ていることも。
テレビによく出ている人って、いったいどんな生活をしているのかな?街を歩いていても電車に乗っていても(電車などという、庶民的な乗り物には、乗らないのかな?)必ず人の視線をかんじているわけで、もし途中でお手洗いに行きたくなっても、そこら辺の公衆便所に入るのにも勇気がいるだろうし、入ったら入ったで、“ほら見て!あの人、お手洗いに入ったわよ”なんて、まるで入ってはいけないようなささやかれ方をするだろうし。大丈夫なのかしらって、人ごとながら心配になってきてしまうのです。
その点、私は楽なのです。
新曲を出す時、各レコード店へ挨拶回りへ行きます。宣伝マンの人たちが、街中を、私の名前の入ったワッペンを胸に歩いていると、必ずだれもが振り向くのです。
“あっ!今、松田聖子って書いてあったよ!”
とてもガックリしてしまうのです。
“あの子、だれ?”という、冷たい視線を身体中に浴びて、顔をなるべく見られないようにと、まるで刑事に連れられた、犯人のような気持ちになってしまうのです。
雑誌の取材でも、ラジオの時でも、とかく松田聖子さんとは比較されてしまう私。ただ『松』と『沢』が違うだけなのに・・・・・・。これが良いのか悪いのかはわからないけれど、。『あなたの本名は?』って聞かれる時ほど、イヤな時はないのです。
いつだったか、ずいぶん前のこと、雑誌のお仕事で、石川優子さんと対談したことがあります。その時、“私たちは、歌謡曲なのかフォークなのか”という点で、いろんな話をしたのです。
やはり優子さんも私も同じで、そのような質問をよくされるとのこと。優子さんは、
『私は、そのどちらでもない、ニューフォークだと思うの』
といってました。ニューミッジュだとか、ニューフォークだとか、新しい言葉が、次々と生まれてくる現在、私自身はどれでも良いと思うのです。絶対に歌謡曲だ!と思う人がいれば、それで良し。フォークだ!と思う人がいれば、それも良し。イヤ、完璧な演歌だ!と思えば、それも、また良し。結局は、同じ歌を歌っているのですから。こだわる必要はないと思うのです。
私が他の人の作品を歌うと、それに対して猛烈に反発したお便りをもらうことが、少なくありません。
“あなたはシンガーソングライターなのに、なぜ、他人の作品を歌うのですか?もっと自分に自信を持ってください"
“あなたは変わってしまいました。もう、昔のあなたではありません。だから僕も、あなたから離れます”などなど。
どうして他人の作品を歌うことがいけないことなんだろう。いっさい、自分自信の作品は歌いません、なんていってるわけではないのに。そして、面白いことには、イルカさんの作品だと、何もいわれないのです。
『卒業』というアルバムには、半分以上、私以外の方の作品を入れました。
とかく、シンガーソングライターは偉くて、テレビによく出ているような、他人の曲をハンドマイクで歌う人はそうではないという、偏見を持つ人が、時々います。けれども、それは本当の偏見であって、間違った考え方だと思ったのです。他人の作った曲ほど、むずかしいものはないと、このアルバムのレコーディング中、感じたのです。それを、毎回毎回歌っている、俗にいう、歌謡界の人たちは、偉いと私は思うのです。
テレビ、ラジオ、雑誌、コンサート、映画etc・・・・・・多忙な毎日を送っている彼ら。そのだれもが、自分で飛び込んで、この世界に入ったのだと思うけれど、これが、アイドルの宿命なのかもしれない。健康にだけは気をつけて、お仕事をして欲しいナと思います。
きょうもまた、デビューしている人が、一人、二人・・・・・・。
オマケ
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