照明のKさんのこと
学校の修学旅行などでホームシックなるものにかかったことは、ただの一度もない私だけれど、このツアーで初めて、寂しい想いをしたのでした。十七歳という、一晩中でも友だちと語り合っていられる年にデビューしたことを、ほんの少しだけど、その時、悔やみました。
何日間も東京へ帰れず、したがって学校へも行けない時ほど、心細く思ったことはありません。プロとしての自覚がまだ薄かったそのころ、周囲の人たちはみんな大人ばかりで、私の話し相手になってくれそうな人は、あまりいなかったのです。例えば、きれいな花を見て感動し、『ワァー、きれいネェ』といったら『ホントにきれいね』と同じ調子で答えてくれる人がいないのと同じように、ひどく孤独を感じていたのでした。みんなが楽しそうに、ワァーワァーいいながらお酒を飲んでいるのを、私も笑いながら手を叩いて眺めていても、常に、私には入り込めないような、厚い壁を、その雰囲気の中に感じとっていたのでした。にぎやかになればなるほど、それは私の心の中で大きく反比例していくのです。
どこから、その想いは湧いてきているのだろう。根源は、私という存在が、この場にふさわしくないのではないかという、自分を卑下する気持ちからだと私は思ったのでした。だから、自分と同等の立場で話せる“仲間なんだ”と思える人がそばにいて欲しかったのです。
周囲の人たちーーーそれは、事務所やレコード会社、イベンター、PA、照明などのスタッフで、そのほとんどが男の人でした。しかし、一人だけ女の人がいました。
照明のKさん。男っぽい、さばさばした性格の人で、ただ一人、彼女には不思議と、なんでも相談ができたのです。
コンサートの後の打ち上げも終わり、ホテルへ帰る。ベッドに転がり、ぼんやりしていても、どこか寂しい。受話器をはずし、Kさんの部屋のダイヤルを回す。
『もしもし、Kさん?私だけど・・・・・・』
『あっ、いいところに電話してきたネ。おいしいおせんべいがあるんだ、食べにこない?』
『ウン、行く行く』
部屋のカギをロックして、ソロリ、ソロリ、と足音を立てずに、廊下を這うようにして、歩く。このことがバレると、とても怒られてしまうから・・・・・・。
こんな私に、Kさんはいつも優しかった。嬉しいこと、悲しいこと、驚いたことなど、延々としゃべりまくる私に、イヤな顔ひとつせずに、“ウン、ウン”と、真剣ば表情で聞いてくれる。モヤモヤと胸の奥に詰まっていた言葉を、すべて吐き出した私に、Kさんは、必ず褒める言葉と同時に、“ピリッ”と鋭い忠告をしてくれるのでした。それがまた嬉しかった・・・・・・。Kさんの語り口調は、私の中に恐ろしいほど素直に入ってくるのでした。
『自分に甘えちゃ、ダメよ。いつかは聖子ちゃんも、リサイタルを開けるようにがんばりなさい!!』
旅をするのが好きだって、いってたっけ・・・・・・。それも、一人旅。よく、旅のエピソードを聞かされたな・・・・・・そう、そう、それから彼氏の話、甘い甘いおのろけも聞かされたっけね・・・・・・。
今は照明のお仕事もやめてしまい、その彼氏とめでたく結婚しちゃったKさん。いつまでも、いつまでもお幸せに・・・・・・。
オマケ
2年振りの全国ツアーに娘と行って来ました。
ライブ終わりまでの血糖値維持の為にこちらをね。
2年前は大ホールでしたがかなり空きがあったので今回は中ホールでした。
今回も手書きのメッセージカードを頂きました。
来週の土曜日には栃木、日曜日には群馬でLiveです。
何か今回の私の出張コースに見事にビンゴしてます・・・。
2時間半のステージ後には毎度お約束の本人とのハイタッチで観客の退場で~す。
ステージから客席に降りて通路を周りながら唄ったりサービス精神満点のライブでした。