以倉紘平「水字貝(みずじがい)」には「与那覇幹夫に」というサブタイトルがついている。闘病中の与那覇のことを祈る詩である。「水字貝」は宮古(島)の魔よけの貝だと言う。「祈り」の部分が以倉の書きたかった中心だと思う。思うのだが、そしてその「祈り」の部分は感動的なのだが、私は、「祈り」に入る前の、以倉と与那覇の出会いを書いた部分に非情にこころを動かされた。
与那覇幹夫と私は
山之口貘賞の仕事で年二回琉球新聞社指定の場所で会った
選考会と贈呈式が終わった翌日は
ずいぶんと年期の入った車で
彼は小旅行に私を連れ出してくれるのが常であった
沖縄南部の晴れわたった海の見える休憩所
ナーベラーという沖縄料理を教えてくれたのも彼であった
道端のアイスクリーム売りのおじさんから彼が買ってくれた
素朴な甘い味を今突然私は思いだして涙している
話はつきなかった
どこがそんなに気に入ったかというと「ずいぶんと年期の入った車で」という一行である。中古車なのだろうが、乗り続けている。その自分の乗り続けている車で与那覇は以倉を案内する。その招待を受ける以倉は以倉で「ずいぶんと年期の入った車」と思っている。口に出して言ったかもしれないが、たぶん、言わなかっただろう。それは、なぜか。与那覇が以倉をつれていってくれるところが、与那覇の暮らしそのものだと感じたからだろう。
特別なことをするのではない。
「彼は小旅行に私を連れ出してくれるのが常であった」という一行が、車のあとにつづいている。そのなかに「常」ということばがある。ここには「常」が書かれているのだ。かわることのないもの、持続しているもの、これからも生きつづけるものが、しっかりと書かれている。
そう思って読み返すと「年期」ということばが美しく見えてくる。「年期が入った」は単に古いということではない。そこに「年期」(時間)が入っている。こういうときの「時間」というのは物理的(科学的)な時間というよりも、暮らしそのものだね。
つまり、与那覇の車でいえば、もっぱら高速道路を走る車ではなく、大通りだけを走る車ではなく、どんな細い道、舗装していない道も走るという「時間」を生きてきた。だから、その車の傷も(傷み方)も、「常の暮らし」を感じさせるものになっている。
だからこそ。
特別な「名勝」ではなく(名勝なのかもしれないけれど)、「晴れわたった海の見える休憩所」という固有名詞のない場所がよく似合う。「道端のアイスクリーム売り」がよく似合う。
私は以倉にも与那覇にも会ったことがないが、なんとなく与那覇がなつかしい。そういう気持ちになってくる。会ったことがない人なのに、その人がなつかしく思い出せる(?)、あ、思い浮かべてしまうか……というのは、なかなかない。
私は、こういう「正直」がそのまま出てくることばが大好きだ。
以倉の正直、与那覇の正直。ふたりの正直が出会って生きている。
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