破棄された詩のための注釈16
谷内修三2020年09月01日
聞き慣れた声が、どこか遠くをわたっていく。誰も何も教えてくれなかったのだと気づいたとき、周りにあるものがひとつひとつ消えていくのがわかった。それも体で触れたことがある部分は残したまま、存在の芯がとけていくように消え始めるのだ。椅子の、こんなところにあった肘掛け。机の上にこびついているコーヒーカップの痕。天井のきめこまかい明りさえも。
「まるで死のように」という比喩がすぐにあらわれたが、書けなかった。あまりに強烈で、ストーリーには思えなかった。主人公が考えたこととは思えなかったのだ。