アルメ時代24 秋の花 | 詩はどこにあるか

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24 秋の花



ビルの壁が斜めに降ってくる光を受け
具象と抽象のあいだをさまようので
私は一本の木を求める
梢の幾枚かが明るく輝き
残りは肌寒い影にのみこまれている
そんなアンバランスな木を
窓から見つめていたい
木と私との距離を利用して
たぶん私は物語をつくる
雨に叩かれて芽吹いた木の葉が
思いがけない角度で電話線をこすったが
いまはだらしなく濁っている、と
時間の枠組みをつくる
それから女を出したりひっこめたり
季節の変わり目に吹く風のように
急に向きを変えたり温度を変えたりする
二、三のことばを引用する
ときには見せ消ちを残し
陰影をつくっていく
どうにもならなくなったときは
湿っているアスファルトのにおい
その底にある土を呼吸する樹液
のようなものを狙ってみる
つまり私の物語が木に似ることを願いながら
遠近法の中心へもどる
それから象徴というものを考える
「象徴とは思考をやめたとき
ふいにあらわれてくるものである」
という行を挿入すべきかどうか
しばらく頭を悩ませたりする
そうするうちに宇宙は動いていって
木がビルの影にのみこまれて
なんとなく秋はおわる




(アルメ246 、1986年12月25日)