アルメ時代23 幸福 | 詩はどこにあるか

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23 幸福



「星のつまった袋を持っている
つまり宇宙を持っている」
と男はくりかえした
酔うとひとつの話しかできなくなる
「それは少し脳の形に似ている
つまり皺が入り組んでいて」
女の視線が動くのを待って
男の舌はゆっくりつづける
笑いをおさえるように
しばらくあともどりをする
「それは少し脳の形に似ている
そのためだろうか
ときどき 袋で考えることがある」
男のひとり笑いが
うすくらがりで吊るされて揺れる
女はよそを向いて
泡の消えたビールを決意のように飲む
「幸福を追い求める気持ちが
急にしぼんでしまった」




(アルメ245 、1986年11月10日)