嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(74) | 詩はどこにあるか

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* (近づけば)

なぜその幻は消えるのか
高層ビルの窓ガラスを染める千の夕日

 「幻は消える」を書きたかったのか、「高層ビルの窓ガラスを染める千の夕日」を書きたかったのか。たぶん、後者である。「幻は消える」は言い古されたことばだろう。それを「高層ビルの窓ガラスを染める千の夕日」という一行で洗い直す。
 「千(せん)」という漢語の響きが強烈だ。
 「高層ビル」は「一つ」、「夕日(太陽)」も「一つ」なのに、窓ガラスのなかで「千」になる。しかし、近づくと「千」は消える。「千」は具体的な数ではなく「抽象」である。だから、書かれていない「一つ(抽象)」も「千」のなかにある。
 それは嵯峨がまた「一つ(ひとり)」であることをも語っている。




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詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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