大島憲治『シャドーボクシング』 | 詩はどこにあるか

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大島憲治『シャドーボクシング』(蝶夢舎、2018年10月31日発行)

 大島憲治『シャドーボクシング』をふと思い出した。嵯峨信之の詩の感想を書いていて、どこか似ているところがあるかもしれないなあと感じた。
 「巨人」の書き出し。

ぼくのなかに極小のぼくがいる
それが物質なのか非物質であるのか
わからない
おそらくはその中間に存しているのでは
とぼくは踏んでいる

 「物質」と「非物質」を対峙させたあと、「中間」という項目を挿入している。そうすることによって「論理」を動かし始める。
 大島の詩は実際はその「中間」を追い詰めてはいかない。しかし、ことばを動かすきっかけにはなっている。ことばを動かすことが詩である。そのときことばは「論理」を踏まえながら動く--こういう姿勢が嵯峨に似ていると思う。
 「を」は、こうはじまっている。

傾いだ鳥のちいさな頭を
突き刺さった空の小枝を
凍った雲を
地下深く
広げた翼を

十三歳の冬の精嚢から
天井を飛ばした晩を
ミルクがほとばしった夜空を

モルタル校舎の西階段を駆け上がった
白いソックスを

 「を」につづく「動詞」が省略されている。かわりに「を」に先行するイメージが連絡を取り合って抒情を構成する。
 「小さな頭」「小枝」は「十三歳」と言いなおされ、「モルタル校舎」へとつながっていく。「突き刺さった」は「劇」である。その「劇」は「空」と「地下」を結ぶ運動である。「深く」ということばを手がかりにすれば、大島に意識されているのは「地下」である。
 「意識」か「無意識」か。そうではなく、その「中間」と考えた方がいいだろう。「意識」でも「無意識」でもない、まだ「ことば」になっていない「中間」にあるもの。
 それ「を」どうするんだろう。
 動詞は最後まで書かれない。つまり読者にその選択が任されている。
 私は「探す」と読んでみる。しかも「探しに行く」というよりも、書かれたことばが「現実」としてあらわれるのを「待つ」、その祈りのような耐えるしかない行為を「探す」の意味として補いながら。

 実は私は、きょう、嵯峨のこういう詩を読んだのだ。『土地の名~人間の名』に出て来る。

ぼくは記憶する前に記憶を失つた
その記憶の蘇生を待つぼく自身を 水を 砂を
生きるためにぼくは空のなかに路を探した
雲と雲とのあいだの羊の路を




*

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