8 金星
「夕暮れの空に最初に輝くのは金星です
私たちは宵の明星と呼んでいます」
女は帰っていった友との会話を反芻した
「カルカッソンヌでも
夕空に一段と輝くのは金星です」
それから私たちは現代の郷愁について話した
天体の運動も郷愁になるのだ とか
コスモポリタンの郷愁の源泉は普遍的な事実である とか
それはなれないことばから解きはなたれて
気ままに動いた精神の幻かもしれない
私たちの定義は……
「ほんとうは何を言いたかったのだろう」
しばらく私たちは川のように流れる国道をみつめた
急ぎ足の重さに歩道橋が揺れ
ビルの上に星が輝く時間になっていた
(アルメ233 、1985年05月10日)