105 アンティオコス・エピファネスにむかって | 詩はどこにあるか

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105 アンティオコス・エピファネスにむかって


マケドニア人が おおいなる戦いのさなかにあります。
もし彼らが勝ったなら-- 誰にせよのぞむ者に
わたしは珊瑚で作った 獅子と馬とパンの像を
粋をきわめた宮殿を ティロにある庭園を、つまりあなたに
頂いたすべてを与えましょう アンティオコス・エピファネス様》


 と、「アンティオキアのある若者が 王にむかって言う」。
 「もし彼らが勝ったなら」という仮定はこころをくすぐるが、同時に「負けるに違いない」という不安をまねきよせる。そして、そのことばにされなかったものが、まるでそれを期待していたかのように実現する。
 王は、


何も言わなかった。 立ち聞きする者が
外に漏らすかもしれない-- それに予想のとおり
彼らは間もなくピドナで 大敗北を喫したのだ。


 「予想のとおり」が肉体に突き刺さってくる。一連目の「珊瑚で作った 獅子と馬とパンの像」云々の豪華なことば、口にされたことばとは違うもの。そこに「真実」がある、という感じで。
 ひとはなぜ「予想」するのか、あるいは「予感」するか。そして、それはなぜ的中するのか。「歴史」と「予想(予感)」が重なる。つまり、「歴史」は繰り返す。知っていることしか、起きないのだ。
 つまり、カヴァフィスは「歴史」のなかに、彼自身の未来を「予感」するしかない詩人だったということだろう。

 池澤は、アンティオコス・エピファネスの「歴史」を註釈で書いているが、長いので省略する。



 


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