岡野絵里子「病室」 | 詩はどこにあるか

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岡野絵里子「病室」(「彼方」3、2019年02月28日発行)

 岡野絵里子「病室」は死んでいく伯母を描いている。


夜の深さは忘れられる
眠る伯母の病室は夜のはずれにあった


 「夜のはずれ」ということばが強く響く。時には「中心」よりも「はずれ」の方が意識を引っ張る。


伯母の気配は淡い灯りとなって瞬き
遠ざかって行こうとする
残された身体は透き通り
空洞を震わせて
何かを奏で始めいた


だろうか?


 理詰めすぎて、私は、ここで少しいやな気持ちになったのだが、そのあとのことばがとても美しい。


いや
それはかつて
彼女が家族と暮らした土地の
明るい林の音 に聞こえる
木立が枝を差し伸べて
生きる時間に触れていた音


 「歌」ではない。「音楽」ではない。「歌」や「音楽」になるまえの「音」をつかみとっている。武満徹の耳のようだ。「音」を「歌」や「音楽」に変えていくのは、それを聞いた人であって、作曲家ではない。
 それは前の連の「淡い灯りとなって瞬き」の「瞬き」のようでもある。


  陽を浴びて葉々がそよぐ
  あふれる光の下を
  若い母親と子どもが手をつないで歩いて行く


 これは「情景」であり、視覚でとらえる世界だが、なぜか「音楽」が聞こえる。「音」が聞こえる。「音」ということばをつかっていないのに。
 詩の不思議さを感じる。


*

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