73 カエサリオーン
池澤の註釈。
カエサリオーンは有名なクレオパトラ(すなわち七世)の長男(略)。この名は「小さなカエサル」の意で、アレクサンドリアの市民たちがつけたあだ名である。
カヴァフィスは、こう書く。
わたしは心の中に勝手におまえを思い描いた。
美しく感覚的におまえを思い描いた。
わたしの技倆によっておまえの顔には
夢見るような、訴えかけるような美が宿った。
かく完璧におまえの姿を想像したので、
昨日の夜遅く、ランプが消えた時、
--わたしはわざと消えるにまかせたのだ--
わたしの部屋におまえが入ってきたように思った。
「思い描いた」が繰り返され、「想像した」と言いなおされ、「思った」と平凡な、しかしそれゆえに「わざと」が消えた自然なことばに落ち着く。直前に、「わざと」があるので、なおさら「思った」が強く「肉体」をする。
魅力的な詩のことば、詩らしいことば、たとえば「訴えかけるような美」とか「宿る」ということばよりも、「思い描いた」から「思った」までの変化の方に、私はカヴァフィスの天才を感じる。
カヴァフィスは正直になる方法を知っている。身につけている。
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