池澤夏樹のカヴァフィス(63) | 詩はどこにあるか

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63 神々の一人

 超越的な魅力をもった人間に出会ったとき、人は何ができるだろうか。


それを見た通行人たちは
あの若者を知るかと互いに訊ねあい
シリアからのギリシャ人かはた外国人かと
いぶかしむ。しかしもう少し注意深い者は
すぐそれと覚って一歩脇へ寄る。


 自分には手が届かない。けれど、しっかりと見届ける。


彼が柱廊の下の暗がりへと、
たそがれどきの光と影の中へ
夜ばかり息づく一角へ、狂宴と
飽食の巷へ、ありとあらゆる陶酔と好色へと
消えてゆくのを見送りながら、


 どうして、そこがその場所だと知っているか。自らが体験しているからだ。カヴァフィスが「陶酔と好色」を体験しているからだ。そして、「あの若者」が「陶酔と好色」を体験したあとは「61 通過」の若者になる。「単純な若者」から、もっと「目を注ぐに値するようになる」ということを知っているから、早くそうなるように、「一歩脇へ寄り」彼を見守るのだ。

 池澤は、


放蕩もまた神の資質ではある。


 と書いている。
 私は神が放蕩するというよりも、若者が放蕩の果てに神になるのだと読む。カヴァフィスの神に。カヴァフィスは詩、ことばによって神を誕生させる。











 


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