池澤夏樹のカヴァフィス(62) | 詩はどこにあるか

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62 六一〇年に二十九歳で死んだアンモネスのために


ラファエルよ、詩人アンモネスの顕彰のために
きみに何行かの詩を書いてほしいとみなが望んでいる。


 と始まる。その二連目。


彼の詩のことは勿論言わなくてはならない--
しかし彼自身の美貌のこと、わたしたちが愛した
あの優雅な美しさのこともを含めてはくれまいか。
きみのギリシャ語はいつも美しく音楽的だが、
今はきみの技倆をも少し用いてほしい。


 さらにつづいているのだが、おもしろいのはラファエルの詩が引用されるわけではないのに、それがどんなものであるかわかることだ。わかる、は語弊があるか。どういうものか、想像できる。いや、想像してしまう。
 これはある意味では「註釈」の詩である。
 ここにある作品がある。詩人アンモネスを顕彰するためにラファエルが書いたものだ。アンモネスは詩はもちろんだが、その美貌が人に愛された。彼の優雅な美しさが書かれている。そのことばは音楽的で、アンモネスの美貌にふさわしい。
 あるいは、いまはやりのことばをつかって「メタ詩」と呼んでもいい。
 カヴァフィスはラファエルのような詩を書いた、と自己評価しているんだろうなあ。池澤の註釈では、


登場する二つの固有名詞はどちらも架空のもの。


 とある。
 架空の詩人を相手をモデルにすることで、「私はいつでも美しい人を、美しい音楽的なことばで賞賛している」という「行為」を浮き彫りにしている。









 


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