池澤夏樹のカヴァフィス(42) | 詩はどこにあるか

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42 文法学者リシアスの墓


ペリトゥスの図書館を入ってすぐのところ、
右手の方に文法学者リシアスは埋葬されている。
これは彼にとって最もふさわしい場所。
彼が思い出すであろうもののすぐ近くに
我々は彼を埋めた--註釈、本文、文法解析、
研究、ギリシャ語の慣用語法に関する大著。


 池澤は書いている。


リシアスは架空の人物。


 これはとても興味深い。
 なぜ墓を書くのに、架空の人物を「文法学者」に仕立てたのか。池澤は何も書いていないが、私は、こんなことを感じた。
 カヴァフィスは詩人である。詩人のことばというのは、ときには文法を逸脱することがある。日本の現代詩を読んでいるからそう感じるのかもしれないが。
 たぶん、カヴァフィスには、自分は文法を逸脱していない、文法を正確に守っているという自負があったのだろう。文法を守ったまま、文学を書く。詩を書く。
 さらに、


ギリシャ語の慣用語法


 ということばが出てくるが、シェークスピアが英語の慣用句を多用したのにならってカヴァフィスもギリシャ語の慣用句を多用したのだろう。普通の人が話している普通のことば。それを組み合わせて、誰も書かなかったことを書く。そういう自負が感じられる。
 「40 非売品」の


それらを彼はきちんと丁寧に
高価な緑色の絹に包んだ。


 この「きちんと」「ていねいに」「高価な」もので「包む」という一連のことばのつながり。それは一種の「慣用句」であり、そういう慣用句が使われるときの、ひとのこころというものが、そこにある。カヴァフィスは、誰もが「秘密」を大切にするときのこころと肉体の動きを「慣用句」を使うことで浮き彫りにしたのだ、と改めと思う。


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