池澤夏樹のカヴァフィス(41) | 詩はどこにあるか

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41 わたしは行った


自分を縛りはしなかった。のぞむままにわたしは行った。
なかばは現実であり、なかばはわたしの
欲望の中に渦巻くものである喜びを求めて、
明るい夜、わたしはでかけて行った。


 「なかばは現実であり」「なかばはわたしの/欲望の中に渦巻くもの」という対比がおもしろい。「欲望の中にうずまくもの」はまだ「現実」になっていないということか。しかし、「欲望」は現実そのものだろう。あるいは、まだ現実になっていない「喜び」の方が、より現実的というべきか。カヴァフィスは、そのまだ現実にはなっていないものに従っているのだから。
 ただ、この


欲望の中に渦巻くものである喜びを求めて、


 という一行は、とても硬い。「ものである」というのは、昔の「学校翻訳」、あるいは大江健三郎の長い長い文体に出てくることばのようで、私はいやだなあと感じる。「関係代名詞」を、いまは、もうこんなふうに訳さないのではないかと思うのだが。
 池澤の几帳面な部分があらわれている、と見るべきなのかもしれないけれど。


用心ぶかい一面をもっていた詩人がなぜこの種の作を公表することにしたのか、興味を惹くところである。


 この池澤の註釈も、几帳面ということに尽きると思う。「40 非売品」もまた同じように同性愛を描いている。「欲望の中に渦巻くものである喜び」と書けば「夜の生活」(池澤の注にあることば)になるのではないだろう。「比喩」の方が、もっとあからさまであると感じるのは私だけだろうか。 


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