池澤夏樹のカヴァフィス(40) | 詩はどこにあるか

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40 非売品


それらを彼はきちんと丁寧に
最高の緑色の絹に包んだ。

紅玉で作った薔薇、真珠の百合、
紫水晶の菫。すべて自分の判断と、

嗜好と美の感覚によって--自然のままにおくでも、
研究の対象にするでもなく。そして金庫にしまっておく、


 これも恋の詩だろうなあ。
 「すべて自分の判断と、//嗜好と美の感覚によって」が、恋なのだ。誰を好きになるか、どこが好きなのか。それは自分にしかわからない。
 「自然のままにおくでも、/研究の対象にするでもなく。」は不思議な秘密の匂いがする。どうしていいか、わからないのだ。
 できることは、「きちんと丁寧に/最高の緑色の絹に包んだ。」
 この「包む」に恋のすべてがある。「包んで」「しまっておく」。
 「きちんと」「丁寧に」「最高の」と、ことばを重ねずにはいられない。

 池澤は、こう書いている。


 原題は「店に所属する品」の意。主人公は腕の良い宝石職人で、一級の装身具を作って売る一方、自分の喜びのために宝石を花で作って秘蔵している。


 まあ、そうなんだろうけれどね。
 私は、ここに書かれている「宝石」を「自分好みの恋人」と読む。「宝石」は比喩である。


誰か顧客が店に入ってくれば

彼は別の品を出して見せるだろう--一級の装身具--
首飾りや腕輪、そしてまた指環や鎖を。


 最後の装身具には具体的な説明がない。そっけない。それは「恋人」ではないからだ。そして、「指環」「鎖」は、何というか、人間を「拘束する」イメージがある。
 カヴァフィスは、逸脱していく恋を、ことばのなかに隠している。



 


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