40 非売品
それらを彼はきちんと丁寧に
最高の緑色の絹に包んだ。
紅玉で作った薔薇、真珠の百合、
紫水晶の菫。すべて自分の判断と、
嗜好と美の感覚によって--自然のままにおくでも、
研究の対象にするでもなく。そして金庫にしまっておく、
これも恋の詩だろうなあ。
「すべて自分の判断と、//嗜好と美の感覚によって」が、恋なのだ。誰を好きになるか、どこが好きなのか。それは自分にしかわからない。
「自然のままにおくでも、/研究の対象にするでもなく。」は不思議な秘密の匂いがする。どうしていいか、わからないのだ。
できることは、「きちんと丁寧に/最高の緑色の絹に包んだ。」
この「包む」に恋のすべてがある。「包んで」「しまっておく」。
「きちんと」「丁寧に」「最高の」と、ことばを重ねずにはいられない。
池澤は、こう書いている。
原題は「店に所属する品」の意。主人公は腕の良い宝石職人で、一級の装身具を作って売る一方、自分の喜びのために宝石を花で作って秘蔵している。
まあ、そうなんだろうけれどね。
私は、ここに書かれている「宝石」を「自分好みの恋人」と読む。「宝石」は比喩である。
誰か顧客が店に入ってくれば
彼は別の品を出して見せるだろう--一級の装身具--
首飾りや腕輪、そしてまた指環や鎖を。
最後の装身具には具体的な説明がない。そっけない。それは「恋人」ではないからだ。そして、「指環」「鎖」は、何というか、人間を「拘束する」イメージがある。
カヴァフィスは、逸脱していく恋を、ことばのなかに隠している。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455