池澤夏樹のカヴァフィス(14) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

詩の感想・批評や映画の感想、美術の感想、政治問題などを思いつくままに書いています。

14 蛮族を待ちながら


なぜ道と広場にはまったく人影がなくなり
人々はそれぞれの家の中をうろついて考えこんでいるのか?

 なぜなら夜になったのに蛮族は来なかったから。
 何人かの者が国境から戻ってきて、
 蛮族など一人もいないと伝えたから。


さて、蛮族が来ないとなると我々はどうすればいいのか。
彼らとて一種の解決には違いなかったのに。


 「蛮族」とは何だろうか。具体的には書かれていない。「蛮族」の「蛮」は「野蛮」の「蛮」である。野生である。文明は野蛮を破壊するが、野蛮が文明を破壊することもある。新しいいのちを吹き込む、活性化すると言い換えてもいいかもしれない。
 池澤は、こんなふうに書いている。


彼等は蛮族の支配を恐れ、懐柔を画策する一方で、身をあずけてしまいたい、すべてをまかせてしまいたいと望んでもいる。


 これは「恋」の気分に似ている。
 だから、私はこれもまた「恋」の詩なのだと思う。「11 窓」には「外の光はまた別の圧制者かもしれない」という一行があった。「圧制者(蛮族)」はいつでも「光」なのである。いまの「闇」を切り開いてくれる。
 池澤は、こうも書いている。


没落した豪商の子だったカヴァフィスにはこのような実力をともなわぬ意識、力の喪失と文化という美しいぬけがらに対する強い関心があった。


 「倦怠」はいつでも文学のテーマである。「倦怠」を破っていくのは、いつでも「野蛮/野生」である。










 


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455