高橋睦郎『つい昨日のこと』(132) | 詩はどこにあるか

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132  独裁者は

 「独裁者」が誰のことを指しているのか、私にはわからない。
 独裁者は、

 
夜半の誰もいない執務室で ひとり呟いている
誰か俺を殺してくれ 殺してらくにしてくれ と
しかし 呟きを聞いてしまった不寝の番は殺される
毎夜毎夜 一人ずつ殺される 両耳ずつ塩漬けにされる


 「耳」が切断され「塩漬け」にされるというのは、不気味で、強い。さすがに「独裁者」はやることが違うと感動してしまう。
 でも、


塩漬けされた耳たちは眠らない 眠らない耳たちに囲まれて
独裁者は不眠 何千日 何十年も 苛苛と不眠つづき
終わることのない不眠の中で 死への渇望はますます募る


 こう「論理的」に転換してしまうと、「結末」が「推理」できてしまう。
と書きながら、突然、三島のことを思ったりする。三島の華麗な文章は、とても「論理的」ではないだろうか。華麗さを「論理」で押さえている。記憶の中にある三島の印象で書いているので、どこがどういう具合にとは言えないのだが。「論理的」だから「人工的」という感じにもなる。
そして、この「論理的/人工的」という部分で、高橋と三島は重なり合うかもしれないなあと思ったりする。「野蛮」がない。「暴力」がない。