自民党憲法改正草案を読む/番外235(情報の読み方)
2018年10月07日の読売新聞朝刊(西部版・14版)の一面。「地球を読む」に慶応大学の細谷雄一が寄稿している。「民主政の危機/偏った民意が招く独裁」という見出しがついている。
世界の民主主義国家に「巨大かつ重大な変化」が生じている、と書いたあと、そのことに注目している本が2冊刊行されたと紹介する。一冊はハーバード大教授二人による「民主主義の死に方」(新潮社)、もう一冊はケンブリッジ大教授の「民主政の終わり方」(邦訳未刊行)。
米国にトランプ政権が誕生し、中国やロシアのような権威主義体制の国家が影響力を強めている。こうした中で、独裁主義的な指導者が民主主義のルールを拒否、対立相手やメディアの否定、暴力の許容などの行動に走ることで、民主政に不可欠な条件が浸食され、政治が堕落する様子を両書は見事に描写している。
その詳細は、わからないが、疑問に思うことがある。
細谷の紹介している二冊には「日本」のことが書かれているのか。どうも、そうとは思えない。トランプ政権の誕生やイギリスのEU離脱を中心に社会を分析しているのだと思う。
そういう本を紹介することはそれなりに意味があるのだろうが、そんなことをするよりも日本の「政治状況」を細谷自身のことばで分析すべきだろう。
「民主政の終わり方」は「邦訳未刊行」。細谷は、英語で読んでいる、ということだろう。ふつうの日本人よりも先に、その情報(?)を知っている。だから、細谷の「論」は正しい、というつもりなのかもしれないが、外国人が外国の政治状況を分析したからといって、それがいったい何になるのだ。単にそれを紹介するだけではなく、その「手法」で日本の政治状況を分析すると、どうなるか。それを細谷のことばで書かないと意味がないだろう。
「外国人(ハーバード大教授、ケッブリッジ大教授)」が言っているのだから、それは「正しい」というのは、単なる「権威主義」である。外国人の正しい主張を知っているから、細谷の書いていることは正しい、というのは「トラの威を借るなんとか」である。何の意味もない。
細谷は、途中にナチス政権のことを書いている。(細谷の文章は、1面から2面につづいている。)その2面の見出しには
日独の「崩壊」経験 生かせ
とある。ナチスはワイマール憲法を改正し、戦争に突入した。そのことを反省せよ、ということのようだが、日本の憲法を改正しようとしている自民党のことには触れていない。麻生は、政権運営にあたって「ナチスを参考にしたらどうか」と言っている。安倍はそれにしたがって、やっている。そのことを無視して、ヒトラーのナチスのことを紹介している。
日本の状況をぜんぜん見ていない。
おしまいの方には、こんな文章がある。
日本の安倍首相とドイツのメルケル首相は、先進7か国(G7)の指導者の中で、最も長く首脳の地位にとどまり、最も安定した政治基盤を誇っている。
日本とドイツは、20世紀の歴史の中で民主政の瓦解に直面し、第2次大戦後にこれを復興させた。現在の日独両国の安定は、民主政の崩壊がもたらす深刻な問題を他の国々よりも熟知しているかもしれない。
驚いてしまう。
ドイツはヒトラーの政治を厳しく批判している。つまり、ヒトラーを否定し、その歴史を踏まえて政治を行っている。ところが安倍・麻生は、そのヒトラーに学んで、「こっそり」と政治を動かそうとしている。
メルケルは極右勢力の台頭と向き合いながら、世界的課題である「移民」の問題にとりくんでいる。安倍は極右勢力を利用することで「移民」を排除しようとしている。そのうえで、労働力不足を解消するために外国人を安い賃金で「使い捨て」にするため方策を進めようとしている。
メルケルがやっていることと、安倍のやっていることは、合致しない。「復興」と細谷は書いているが、「経済」だけが「国家」ではない。そのうえ、日本の「経済」なんて、「みかけ」にすぎない。株がいくら上がろうが、企業と株保有者の問題に過ぎない。経済全体の問題ではない。円安だから株が上がっているに過ぎない。
かつて円は1ドル80円の時代があった。それが今では 110円を超えている。30円以上安くなっている。逆に30円値上がりして1ドル50円だったら、私たちの暮らしはどうなっていたか。輸入品はどんどん値下がりする。海外旅行も、いまの料金で2回以上行けることになる。円高がともなわなければ、経済が復興したとは言えない。日本が豊かになったとは言えない。
脱線した。
日本国内で繰り返されている安倍批判、安倍は「討論をしない」(民主主義の根幹の否定である)、討論に必要な資料を捏造し、不都合な資料を隠蔽・廃棄する(議論の根底になるものを提示しない)、反論を述べる人を「こんなひとたち」とひとくくりに否定し、排除する。さらには差別を助長する人を批判しようとしない、性暴力をふるう人をかばう、ということをやっている。
それこそ最初に引用した、
独裁主義的な指導者が民主主義のルールを拒否、対立相手やメディアの否定、暴力の許容などの行動に走ることで、民主政に不可欠な条件が浸食され、政治が堕落する
ということが日本で起きている。
こういうことに目を向けず、外国人の書いた文章だけを尊重し、それを知っているから私の論は正しい、というような「学者のひとりよがり」にはあきれかえってしまう。外国の人の書いたものを読んでいるからといって、それを読んだ人が「えらい」わけではない。
細谷のような人間(権威主義者)が、民主主義をぶちこわすである。「権威」を自慢するだけで、自分のことば、今起きていることを自分はどう読み解き、判断しているのかを語らない人間の意見は有害である。
#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
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