グザビエ・ドラン監督「たかが世界の終わり」(★★★★★) | 詩はどこにあるか

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監督 グザビエ・ドラン 出演 ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥー、マリオン・コティヤール、バンサン・カッセル、タリー・バイ

 これは、つらいなあ。
 これがカナダ人? カナダに住むフランス語を話す人々、なのか。(私が感じているフランス人とはかなり「人格」が違う。)
 登場人物は5人。主人公以外はしゃべりまくる。ただし、話すことばの「質」は非常に違う。妹、兄、兄の妻、母親。マリオン・コティヤールが兄の妻。彼女だけが「肉親」ではない。そのために「距離」のとり方が違う。「距離」があるために、主人公をいちばん理解しているような感じがする。
 最後のシーン、何か言おうとするが、主人公のギャスパー・ウリエルの唇に指を当てて「しーっ」と身振りで沈黙を指示され、口をつぐむ。彼女だけが、「口をつぐむ」ということを知っている。
 他の家族は口をつぐめない。言わずにはいられない。だから、逆に、うまくしゃべれないという形で会話がぶつかり合う。
 こういう会話、自分の家族とできる?
 私は、できないなあ。したことがないなあ。そのために、なんだかどぎまぎしてしまう。

 まあ、それは置いておいて。

 4人は、なぜ、あんなに感情をむき出しにするのだろう。
 主人公はゲイ。自分が死ぬことをわかっている。それを家族に告げに来た。しかし、言い出せないまま帰っていく、というストーリーなのだが。
 家族は、そしてマリオン・コティヤールは彼の死期が近いということを知っているのだろうか。私は、映画を見ている観客よりも、強く、深く、そのことを知っているように感じてしまった。
 ギャスパー・ウリエルが死ぬとわかっている。12年ぶりに帰ってくる。なぜなんだ。もしかしたら、死ぬのではないか。死ぬ前に別れに来たのではないか。その「予感」のようなものが、ぐいとのしかかってくる。
 それをどう受け入れていいかわからない。
 ギャスパー・ウリエルが何か言おうとすると、それを抑え込んでしまう。言わせたくない。聞きたくないのである。愛しているから、憎んでしまう。
 ギャスパー・ウリエル以上に苦しんでいる。そのために、ことばをうまく発することができない。
 これが、アップの連続でつづく。表情の演技で延々とつづく。
 だんだん、「私は死ぬんだ」というギャスパー・ウリエルの「告白」は聞きたくない、という気持ちになってくる。言わないと、この映画は終わらない。けれど、聞きたくないという気持ちになる。
 それは、だれの気持ち?
 母の気持ち? 兄の気持ち? 妹の気持ち? それとも兄の妻、マリオン・コティヤールの気持ち? 区別がつかなくなる。
 だれに感情移入して気持ちをととのえればいいのか、わからない。
 こういう映画は、私ははじめてである。
 だれに感情移入していいのかわからないのに、そこにあふれる感情にぐいぐいと胸を締めつけられる。

 しかし、マリオン・コティヤールはうまいなあ。肉親ではない、部外者なのに、肉親のなかにまきこまれて、引き裂かれる。引き裂かれながら、その家族をつなぎとめようとする。彼女しか、それができない。だから、そうしなければならないのだが、できない。これを前半は、ひたすらしゃべることで、最後は口をつぐむことで、表現する。

 最後は、「愛の破綻」(愛を失う)を描いているようにも見えるが、「愛の確認」のようにも受け取ることができる。いや、私は「愛の確認」と受け止めた。
 兄も、妹も、母も感情をぶつけて、「家族」がばらばらになる。けれど、それはギャスパー・ウリエルが死ぬことで「家族」が「欠ける」ということに対する「不安」がそうさせるのである。
 マリオン・コティヤールは、「みんな、あなたを愛しているのよ」と言いたい。そのことばを、ギャスパー・ウリエルは「わかっている。言わないでもいいよ」と身振りでさえぎる。そこに、哀しい「和解」がある。彼が死んで「遺体」となって帰って来たとき、家族は悲しみのなかで「ひとつ」になる。(ギャスパー・ウリエルの「遺体」の帰郷は、ラストシーンの小鳥の死骸で暗示される。)「憎しみ」が消える。そうするしかない「家族」という愛。愛の確かめ方。

 こんな苦しみに耐えて生きているのがカナダ人? フランス語を話すカナダ人? (英語を話すカナダ人は違うかもしれない。)
 グザビエ・ドランを、もう一度見直してみないといけないのかもしれない。私は多くのものを見落としていたかもしれない。
 (KBCシネマ1、2017年02月12日)


 
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