破棄された詩のための注釈(7)
「灰色の猫」というタイトルだけが書かれた。その猫は会社の近くの「サバ定食屋」の店にいる。昼になると客があふれ、匂いが充満する。脂が炭火の上に落ちて、うすあおい煙があがる。半身の背中の皮がこげて破れる。焼き上がった。その脂のしたたる背中を、こげた皮ごと口に入れる。すこし苦い。それがどんなにうれしいことか、猫には言い尽くせない。やわらかい肉が、少し衰えた歯肉のせいか、歯のあいだに挟まる。それを気にしながら、定食を食べ終えた客が、うすい茶で口の中のすすぐとき、独特のなまぐさみが鼻腔に甦る。消えていくものが、なつかしい。「意味」が突然襲ってくるみたいだ、という比喩をそこで書いてみたかったのだが……。