「探していた」ということばが、「引き出しのなか」にあった。影に封筒からはみ出た便箋があった。折り畳まれているので、そこにどんなことばがあったのかわからないが、本のなかのことばは「探すふりをして時間稼ぎをしていたのかもしれない」という具合に動いた。「本のなかのことば」ということば、そこにはなかったので、つけたした。
「写真のなかに一本の綱」ということばがあった。「知らない」ということばが、遠くから帰って来たとき、「写真」ということばは「鏡」にかわって、引き出しのなかの手紙から抜け出し、直訴をこころみた。鏡の木枠と、写真立てのフレームはたしかに「似ている」。「似ている」ということばが、とんでもない方向から飛んできて、飛び去った。
追いかけてはいけない。「追いかけてはいけない」ということばがあったが、否定形のあまい誘いにのってはいけない。追いかけてはいけないのだ。
「探していた」ということばに戻っていく。「半開きのドアの蝶番」ということばを開けて、錆びた金属の粉を差し込んできた光のなかに散らす。床に足跡が「暗い水のように」ということばになって、存在していた。「裸足」ということばが、ぶらさがっていた。「鏡のなかに」。動かないので鏡ではなく「写真だと思った」と、ことばは主張するのだ。「ほんとうだろうか」。
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