きのうと同じ道を通って眼鏡屋で度をあわせ直した後、
道の反対側のうどん屋に入り、同じテーブル、同じ椅子にすわる。
テーブルはこぼれた汁を引き延ばしたためにべたついている。
きのうと同じうどんは葱が煮えすぎて甘く形をなくしている。
待ち合わせをしているのだが、待たずに食べおわると、
遅れてきた人は「死ぬのに三か月かかった」と言って、黙った。
ノートを取り出し、細かい数字を書いている。
(人間は死ぬときまっているのに、そんなに時間をかけてもったいない)
(三か月しか持たなかった。金を払って手術までしたのに)
こころの声が聞こえたので、ことばには、その人が自分であるか
他人であるのかよくわからなくなって、うつぶせになっ泣いた。
それから顔を上げて、窓を通して遠い病院の角の部屋を見たが、
下から見上げる格好なので新しい眼鏡でも中までは見えなかった。
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