バスが橋の上を通りすぎるのを
川原から見た。ビルの四階の窓からも。
同じ時間の、違う日だったか。
同じ日の違う時間だっただろうか。
秋の川原では
犬は枯れはじめた草むらに鼻先を突っ込んでいたので、
バスのことは知らない。
そのときの犬の尻尾が四階の窓から見える。
また違う橋の上を、違うバスが通りすぎるのを
私は思い出すことができる。
キヨシの家の庭から、ムツミの家の前の坂からも見えた。
あるときは夏の川原で青いくるみを割っていた。
くるみを栗に書き換えて詩を書いたこともある。
渋皮はまだ白いミルクの皮膜のよう。
周りにはりついているのを爪でこそぎおとして、
青みの滲むやわらかい肉を噛むのは男色家。
バスが橋の上を通りすぎるのを見た。
風に吹かれるように歩いている人のスカートが揺れた。
風は川面の上を渡って、橋をくぐり
遠いところへ吹いて行ったのだけれど。
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