朝倉裕子「ひび」「次は」を読んで、ちょっと不思議な感じがした。2篇、つづけて引用する。
ひび
両の手をあわせて
水をすくう形の器がある
細い糸を這わせたような筋は
ひび
もうすぐ割れる時がくる
粥をよそっているときか
汁をすすっているときか
ぽっかり
ふたつに開いて
なかから流れ出る
隠すひまもなく
*
次は
カサブランカのおちょぼ口
あした 咲きます
2篇の成立過程を知らないのだが、つづけて読むとカサブランカが陶器の花に見えてくる。陶器の器がある日、ひびに沿って割れるように、カサブランカがひびにあわせて口の方から割れて開く。
それだけではなく、その前の「ひび」に描かれている器が何か花のようにも思えてくる。器が割れて、それぞれが花弁のように広がる。
さらに、「ひび」の書き出しの「両の手をあわせて」ということばにひっぱられるように、「器」と「カサブランカ」が、もしかすると朝倉なのかなあという思いも浮かんでくる。
朝倉は水をすくうとき、両手をあわせて救うんだな。掌の筋は、細い糸を這わせたよう。その筋の一本一本に朝倉の人生が刻まれている。
もし、掌が割れるということがあったとしたら、それはどういうことなんだろう。
わからないけれど、カサブランカの花が開くように、掌もまた花のように開いてほしいと思う。そういう気持ちを誘う。
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