西脇順三郎の一行(74) | 詩はどこにあるか

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西脇順三郎の一行(74)

「天国の夏(ミズーリ人のために)」

生殖が終つたらすぐ死ぬといい                   (86ページ)

 「意味」の強い一行だが、「生殖」と「死ぬ」といういわば反対のことばが非常におちついか感じでおさまっている。なぜだろう。「終つたら」(終わる)ということばが仲立ちしているためかもしれない。「終わる」と「死ぬ」はなじみやすい。
 「死ぬ」の反対は正確には「生まれる」かもしれない。それを「生殖」(性交)という「誕生」以前の運動で向き合わせているのも、ことばをなじみやすくしているのかもしれない。
 「すぐ」というのは強調なのだけれど、「すぐ」という音の中になにか「一呼吸」ある。「意味」を強調しているにもかかわらず、一種の「間」がある。これも対立することば(概念)をなじみやすくしている。