西脇順三郎の一行(52) | 詩はどこにあるか

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西脇順三郎の一行(52)

 「最終講義」

やはりあのネツケがすいたい                    (64ページ)

 この作品も長いので、1ページに1行選んでみる。
 「あのネツケ」というのはタバコの種類なのかもしれない。私はタバコを吸わないのでわからない。間違っているかもしれないが(間違っていることを承知で)、私はこれを「ニッケ(ニッケイ/シナモン)」と思っている。シナモンの香りが含まれるタバコ。
 西脇の出身地・新潟では「い」と「え」の音があいまいである。それで「ニッケイ」が「ネツケ」になっているのだと思う。
 そうだと仮定して。
 この「ネツケ」という音が不思議に強い。「ニッケ(ニッケイ)」だと「ッ」の音が弱くて、ものたりない。「ツ」の明確な音が、「やはり」という強調によくあう。「すいたい」という欲望を引き立てる。
 ついでに言うと、私はこのニッケイというものが苦手である。非常に違和感を覚える。私の苦手(嫌いなもの)を西脇が好きなのだということが、私の肉体の内部を「ざらり」という感じでこすっていく。この感触と「ネツケ」というねばっこい音が不思議とあうのである。俗に言う「不協和音」というものか。