谷川俊太郎『こころ』(57) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎『こころ』(57)(朝日新聞出版、2013年06月30日発行)

 「ゆらゆら」は「ゆれる」こころを描いている。「ゆれる」というのは不安定な状態だが、谷川のこの詩は不安定な気持ちにならない。

ゆらゆら揺れる
揺れている
気づかずにいつの間にか
揺れ始めている

 ここまでは、「不安定」へつながることば。「気づかずに」「いつの間にか」というのは気持ちがよくてということもあるかもしれないが、「こころが揺れる」となれば、やはり「不安」の強い。これは、「流通イメージ」というものだろうけれど。

揺れている
木々が
こころが
私が
世界も
ゆるやかに揺れて
揺られて
不安

 ほら、やっぱり「不安」。
 それなのに、

でも赤ん坊のように
身をまかせて
ゆらゆら

 赤ん坊も、力のない感じ、弱い印象があるので、「不安」を増幅させるはずなのに、「身をまかせて」で印象ががらりと変わる。何か、愛情につつまれている感じになる。
 あ、そうか。
 激しくゆさぶられるのではなくて、「ゆらゆら」なら、どこかに「配慮」があるのかもしれない。そういう「感じ」がどこかにあって、その見落としているものを谷川はすばやくつかみとってくるのだろう。
 「身をまかせ」ることの不思議なあたたかさ。
 「身をまかせる」ように「こころをまかせる」と、こころのなかに「安心」が生まれるのだろう。「不安」が消えるのかもしれない。


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