J・J・エイブラムス監督「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(★★) | 詩はどこにあるか

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監督 J・J・エイブラムス 出演 クリス・パイン、ベネディクト・カンバーバッチ、ザッカリー・クイント


 きのう感想を書いたジュリー・デルピー監督「ニューヨーク、恋人たちの2日間」(★★★)のつづきでいうと、この映画はアメリカ個人主義+アメリカ民主主義+アメリカ帝国主義の「教科書」みたいな映画。アメリカというのは一対一の関係を拡大したチームのようなもの。この映画でいうと、ジム(船長)とスポックは親友だけれど、スポックは必ずしも他のクルーと親友ではない。船長を中心にチームを作り、それぞれが自分の「持ち場」で力を発揮し、チームとして「総合的」に難局を乗り切る。あ、アメリカの理想主義も、ここに入っているね。
 ストーリーも、それぞれが活躍して、統合されて成り立つ。演技は個人の魅力をあふれさせてはだめだし、遊んだりすると、映画にならない。監督が特権で全体を統合してゆく。アメリカの軍隊の宣伝にはなるかもしれないが、おもしろいとは言えないなあ。
 宣伝で監督が「登場人物のキャラクターがすごい」といっていたが、おもしろいのは悪役のベネディクト・カンバーバッチくらい。彼がなぜおもしろいかといえば、彼だけがチームに属さず、「個人主義」を生きているからだ。フランス人風に「俺はこれがしたい」と自己流に逸脱してゆくからだ。映画のストーリーは、ベネディクト・カンバーバッチの逸脱、暴走を制御するという具合に展開するので、彼が完全に魅力を発揮できるわけではない。つまり、悪役なので、やっつけられておしまい、ということになるのだが。
 で、こういうストーリー至上主義、役者に遊ぶ余裕を与えない映画というのは、見せ所がどうしても「装置」になってしまう。そして、それはおおがかりになればなほど、とんでもない嘘になる。映画だから嘘でもかまわないといえば、ま、そうなんだけれど。巨大な宇宙船がニューヨークに落ちたら9.11どころじゃないだろう。原子炉の内部へ防護服もつけずに入って作業して、それでも生きている。いやあな嘘が大手を振るようになる。
 アメリカ(人)の思考形態の研究には最適の映画ではあるね。
       (2013年08月18日、天神東宝5)
    
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