
監督 マーク・フォースター 出演 ブラッド・ピット
最近おもしろい映画がないので採点が甘いかも。
ブラピがひとりで世界を救う話だが、ほんとうにひとりしか出てこない。なかなか人件費の安上がりな映画である。最近、この手が多いが。
で、何に金をかけているのかというとCGに金をかけているのだが、この映画ではそれがなかなか効果的。イスラエルの城壁をゾンビが攀じ登るシーンには感心した。こんな攀じ登り方は生きている人間にはできない。人間ピラミッドを壁の高さまで築いていたら、下の人間は重さで死んでしまう。ほう。さらに、せっかく攀じ登った(積み上げた)人間ピラミッドを惜しげもなく崩してしまう。いいなあ。このスピード。ゾンビなんていうとおどろおどろしい感じがするが、どっちかというと無機質で乾いている。かみつかれて、吸血鬼みたいに感染するのに血が飛び散らないのが、なかなかのアイデアだね。
この無機質な感じが、ワクチンの発見につながる論理の見せ方と非常に合致している。論理はどろどろしない。整然としている。ウィルスはウィルスで生き残ることを望んでいる。生き残るために人間の肉体を借りる。もし人間の肉体が死んでしまうウィルスに侵されていたら、その人間をゾンビが襲うことはない。--ね、なかなか論理的だね。こういう論理に血まみれの映像は似合わない。
美男子は(ブラピは私の概念では美男子ではないのだが)、本来血が似合う。血によって美形がいっそう際立つものだが、美男子といわれるブラピにそんなに血を浴びせないのも、なかなかの工夫である。
さらに。
論理(知性)というものは、かなり変なもの、滑稽なものであるが、その滑稽さがストーリーに巧みに組み込まれているところも私はとても気に入った。
たとえば。北朝鮮だけがゾンビの被害から免れている。なぜか。現象に気づいた北朝鮮が国民の歯を全部ぬいてしまったからである。歯がないとかみつくことはできない。だからゾンビ感染が起きない。国民の肉体を肉体とも思わない絶対君主主義が笑い飛ばされてる。
さらに。イスラエル。アラブの主張を押し切ってつくられた人工の「国土」。それが城壁で国民を守っているというのは、北朝鮮に似た感じではあるが、ちょっと違うのは、他の国の人々を受け入れている点。排他主義ではない--とむりやり主張している。ね、皮肉がおかしいでしょ。
そして。
いやあ、笑ってしまった。まあ、ふつうなら笑わないのかもしれないのだけれど(笑ったのは私ひとりだったみたいだけれど)、ブラピが韓国から脱出するときに妻から携帯電話。ベルの音。その音にゾンビが気づく。「携帯の電源を切れ」だって。まるで、ほら、映画の前のマナーの宣伝みたいでしょ。映画のクライマックスで携帯の音が響くといやでしょ? その皮肉みたい。
細部が変に論理的にできている。飛行機のなかでゾンビが暴れ出し、飛行機を爆破させて空中にゾンビをほうりだし、主役のブラピとイスラエルの女兵士だけが助かるというご都合主義もあいきょうのようにして同居させているのも、論理に傾きすぎるのを防いでいるね。
脚本と監督の手腕に★★★★★。でも、やっぱりブラピひとりが世界を救うというのは、あまりにもむちゃくちゃなので、マイナス★1個。論理の基本はすぐに死んでしまう若いウィルス学者のことばがヒントとなっているのだけれど、せめて、この論理をいっしょに行動しつづけるだれかに言わせないとね。
(2013年08月11日、ソラリアシネマ7)
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