谷川俊太郎『こころ』(13) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎『こころ』(13)(朝日新聞出版、2013年06月30日発行)

 こんな詩は書けないなあ――と書くと、ほかの詩なら書けるのかとつっこまれそうだが、書けなくても「まね」はできるかな、と思えるのが谷川の詩の不思議さ。
「散歩」(30ページ)は鬱屈して(?)やりきれないこころをかかえて散歩に出たときのことを書いている。「泥水」の比喩が少し変わっている。2連目の、散歩で見る風景も特別新鮮なわけではない。どちらかというと平凡。これが大詩人の書く散歩の風景?
ところが、3、4連。

いつもの景色を眺めて歩いた
泥がだんだん沈殿していって
心が少しずつ透き通ってきて
世界がはっきり見えてきて

その美しさにびっくりする

 4連目の1行の大胆さに、それこそびっくりする。こんなふうに手放しに、私は書けない。美しいということばをつかわずに美しさを感じさせるのが詩じゃないの? 美しいということばで美しさを表現しようとするのは販促じゃないの?
そう聞いてみたい気持ちを突き破って、何かが私の肉体から飛び出す。びっくりする。びっくりして、それがどんな美しさかよくわからないのに、なぜか納得する。
そうか、こころが泥水ではなく、透き通ると世界がはっきり見えて、美しくなるのか・・・。
私はその美しさをまだ見ていない。悔しいけれど。


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谷川 俊太郎
東京糸井重里事務所