パオロ・ベンヴェヌーティ、パオラ・バローニ監督「プッチーニの愛人」(★★★) | 詩はどこにあるか

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監督 パオロ・ベンヴェヌーティ、パオラ・バローニ 出演 リッカルド・ジョシュア・モレッティ、タニア・スクイッラーリオ、ジョバンナ・ダッディ

 映像がとても美しい。台詞はほとんどない。あっても、男たちが酒場でジャンケン(?)のようなものをして、負けたら酒をおごるシーンくらい。それも、声は「掛け声」だけ。あとはときどき手紙が読み上げられる。音楽は、ピアノと、女の歌声だけ。
 しかし、いいなあ。
 どの映像も非常にしっかりしている。「構図」がある。全シーンが名画になっている。こういう「絵」を撮るんだ、というしっかりした意識がある。舟で湖(川?)をゆくシーンなど、葦で舟や人が隠れるときの、その隠れ方、そして次にあらわれるときのあらわれ方まで、綿密に計算されている。--なぜ、このシーンを取り上げたかというと……。水の上って、「線」が描けない。リハーサルと本番とで、映像が一緒になるとは限らない。それでも、完璧なのだ。
 最初にメイドが別荘の窓を開けて光を入れるシーンがあり、最後にホテルのボーイが手紙をもってくるシーンがあるのだが、その最後のボーイの姿は壁に映った影というのも冒頭と不思議な感じに呼応していて、楽しい。
 おかしいのは、プッチーニが浮気をするシーン。使用人に、ピアノの鍵盤に印をつけて、こことここを叩く、と教える。使用人は、それを懸命に叩く。庭には妻がいる。ようするに、ピアノを弾いているという「アリバイ」をつくって、浮気に出かけるのだが。
 えっ、プッチーニの妻は、プッチーニの弾くピアノと使用人が弾くピアノの音の区別がつかなかった?
 あ、そんなんじゃ浮気されたってしようがないよなあ。
 私は妙にプッチーニに同情してしまうのである。妻の嫉妬深さ。そして、娘のずるさ。それに比べると、このプッチーニの「アリバイ」づくりのかわいらしさ。
 「小話」風になっている。
 たぶん、プッチーニの愛人騒動というのは、イタリアでは周知のことなので、人間劇というより、「小話」にしたかったんだろうなあ。監督は無声映画をとってみたかったんだろうなあ。無声映画には、こういう「小話」が似合っているね。
 その「小話」という点からいうと、ホテルのボーイの影(影絵みたい)もしゃれていてとても楽しいのだが、何と言えばいいのだろう、そいう「小話」の部分と「小話」をはみだすものが入り乱れて、少し残念でもある。「小話」にするなら、もうすこし映像が軽い方が楽しい。あまりに映像が美しすぎて、「小話」がかすむのである。
 特に、最後の最後のほんとうのラストシーン。高い木々を下から撮った映像。テレンス・マリックと違って「神」ということばなど出てこないのだが、(神はほかのシーンに出てくるけれど)、神を感じてしまう。静かな気持ちになる。--この静かさ、その沈黙が、うーん、映画をちぐはぐなものにしている。


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