「現代詩講座」第4回 | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

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「現代詩講座」第4回。(第3回は和合亮一の「詩の礫」を鑑賞したのだが、その日から旅行に出たので、内容をアップする時間がなかった。で、省略)
「ない」ということばを含んだ詩を書く――がテーマ。受講生の作品と語り合ったことを紹介します。

「何でもない日」   小野真代

何でもない日の昼下がり
ぐんぐん伸びる飛行機雲に
つられて家を抜け出した

何でもない道を歩いてく
シマ野良猫を尾行して
知らない街にたどりつく

何でもないよな街角に
誰かが待っているのかも
二人分の花を買う

何でもない日の空は晴れ
シマ野良猫はあくびする
のんびり雲が流れてく
いつかどこかで聞いた歌
いつかどこかで見た風景
何でもない日が続くのは
小さな奇跡の積み重ね

何でもない日の帰り道
茜の空を見上げたら
金星人に手を振って

何にもなくても困らない
何でもない日は続いてく

 小野の作品が特徴的なのは「ない」がテーマ(「ない」ということばを必ずつかうという決まり)にもかかわらず「ない」ではなく「ある」が書かれていることである。「何でもない日」は平凡な、特徴のない日、特別な用事のない日、ということだろう。ぼんやりとすごしてしまう一日だ。こういう一日は「無為の一日」として描かれ、そこに「虚無」が象徴的に描かれたりする。「ない(無)」ということばからは、どうしてもそうなりがちである。「ない(無)」ということばの「意味」に引っ張られてしまうのであう。
 小野の詩は、そういう「ない」の「意味」にひきずられず、のびやかにことばが動いていうる。
 そのことから、「ない、とは、実はあることだ、という哲学が書かれている」と指摘する声が参加者からあった。無と充実は紙一重、隣接している、つながっているという指摘である。
 参加者の中には「空」という作品を書いた人がいた。「空」は「そら」であり、「くう」である。「くう(空)」あるいは「む(無)」な何もない、ではなく、エネルギーの充実した状態(場)を指すと思う。運動を拘束する形式がない、まだ何も生まれていないが、そこからはあらゆるものが生まれうる――それが東洋哲学でいう「空/無」だと思うが、その「空/無」につながる充実が、この作品にはある。

何でもない日の昼下がり
ぐんぐん伸びる飛行機雲に
つられて家を抜け出した

 のびやかなことばのリズム、明るいことばの響きが、拘束するものがない「自由」につながっている。「何でもない日(道/街角)」の繰り返しに乗って、ことばが加速してゆく。想像力が広がってゆくのも、いい感じだ。「ぐんぐん伸びる飛行機雲」がそののびやかさを象徴的に表している。「つられて」という「無目的」が「自由」のよろこびになる。「無目的(無拘束)」だから、ことばは「金星人」にまで動いてゆく。とても楽しい。
 参加者に、「印象に残ったことば(私は書けない/思いつかないことば)はどれ?」と質問したところ、2人がこの「金星人」を挙げた。
 他に、「二人分の花を買う」の「二人分」に驚いたという人が3人いた。1本の花でも2人で見れば「二人分」になるが、読んでいて「二人分」が「二人で見る」を超えていると気がついたからである。「何でもない日」のよろこびを、ふと出会ったひとにわかちあうための「二人分」。(小野自身「誰かに出会ったら、花を渡せる」という意味で「二人分」にした、と説明した。――実際、「誰かが待っているのかも」と、小野はふとこころをよぎった「夢」を書き留めている。)
 「何でもない日が続くのは/小さな奇跡の積み重ね」に共感を示す参加者もいた。東北大震災があり、「何でもない日」そのものが大切であり、それがつづく幸せを感じると改めて知った、ということである。
 再終連の「何にもなくても困らない」の「何もなくても」は「物質(物資)」ではなく、ぼんやりとした、一種の「無意識(無の意識)」につながることばだと思う。
 また、2連目の「猫」と「知らない街」の関係も好評だった。「犬」だときっと「知らない街」へは行けない。知っている街へ帰りついてしまう。無意識のうちに私たちが共有している感覚がことばのすみずみまで行き届いている。猫と知らない街以外にも、「ぐんぐん伸びる」と「つられて」、「あくび」と「のんびり」のように、ことばがどこかで互いのことばを呼吸しあっている。響きあっている。それがこの詩の魅力だ。



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