奇をてらった映画が多い中にあって、これはあまりにもオーソドックスな犯罪映画。ギャング集団。銀行強盗をする。成功はするのだが、ミスもする。犯罪から足を洗いたいと思っている男がいる。そうはさせまいとする仲間がいる。さらに犯罪と無縁の女との恋愛がからんでくる。そこから、犯罪の「足」がつく……。しかし、それがおもしろい。ストーリーの展開(?)をまったく気にせずに、ただただ画面の充実、役者の充実した演技を見ていればいい。
この映画は、映像がとてもしっかりしている。映像に緩急がある。最初の銀行強盗のシーンでも、荒っぽいシーンの一方、女性支店長が恐怖と緊張で金庫のダイヤルをうまくまわせないシーン、その手の震えを押さえるためにギャングが女性の手をそっと握るシーンがある。まあ、それはギャングの「マニュアル」かもしれないが、そういうことをていねいに描いている。素足で通報ベルを押すシーンも同じである。靴を脱がせたのはギャングだが、素足だからこそベルのボタンを正確に探れるのである。そうした伏線の妙もある。
カーチェイスも銃撃戦も、派手になりすぎることがない。ボストンの町、ボストンの市民をスクリーンの中に取り込みながら、不思議に安定している。(私はちょっと正面からずれた席でしか見ることができなかったのだけれど、構図が安定しているのだろう。)
役者では、ジェレミー・レナーがとてもよかった。「ハート・ロッカー」のときは、私にはしっくりこなかったが、この映画は存在感があふれていた。ひとを殺すことにないするためらいのなさ、生きるための覚悟のようなものが肉体全体からあふれている。アイリッシュという設定だが、アイリッシュ特有のひとなつっこい感じの短い顔、笑顔が、凶暴という印象と相反するので、逆に効果的だ。冷酷な顔をしてひとを殺すのではなく、やさしい顔でひとを殺すことに対して平気なのだ。ひとなつっこい顔が、「仲間」の絆を必要としているギャングを、変な具合に象徴している。
さらりとでてくるタイタス・ウェリバー(花屋、ギャングの元締め?)、クリス・クーパー(ベン・アフレックの父)にも存在感がある。
ベン・アフレックは、他の役者に比べると、存在感が薄い。もともとギャングではない、善良な人間なのだろう。それがどうしてもスクリーンを弱くしてしまう。まあ、設定がギャングから足を洗おうとしている男、疾走した母親を探している男というセンチメンタルなものだから、こうなっても仕方ないのかもしれないけれど。
その、ベン・アフレックで1か所、感心したシーンがある。感心したといっても、そのシーンを見ているときは、へたくそ、と思ってみていたのだが、あとから、そうだったのかと思ったシーンである。昔なじみの女とセックスするシーン。カウチにすわり、女が上からまたがっている。女の方はセックスに夢中になっているのだが、ベン・アフレックの方はどうみても覚めている。仕方なしに「セックスシーン」を撮っている、この女なんか好きでもなんでもない、仕事なんだという感じが露骨に伝わってくる。見ていて「へたくそ、真面目にやれ」と怒鳴りたくなるくらいなのである。レベッカ・ホールとのときは、まあ、うまいとはいえないかもしれないが、真面目に演じている。
ところが。
あとで、ベン・アフレックは昔なじみの女には何の愛情も感じていないということが説明される。好きではない。女には子供(娘)がいて、それはベン・アフレックの子供であると女は言うし、ジェレミー・レナーもそう言うのだが、ベン・アフレックは自分の子供ではないということを知っている。ほかの男の子供である。それでもベン・アフレックが女とつきあっているのは、ジェレミー・レナーに恩があるからである。娘が可哀そうだからである。--ということがわかって、あ、あれはうまいなあ。しかたなしにセックスしているというのは、ことばではなく、ちゃんと肉体で観客に伝えている。
ということに気がついて、しかしなあ。
そんなことろを真面目に演じてどうする、という気もしてくるのだ。ギャング映画なのだから、ギャングの強烈な体臭のようなものをもっと感じさせてほしい。いくら足を洗おうとしているとは言っても、「ゴッド・ファーザー」のアル・パチーノくらいの存在感がほしい。(アル・パチーノは足を洗ってしまうわけではないけれど。)きっと、ベン・アフレックという人間そのものが真面目なんだろう。損しているねえ……。マット・デイモンと比較してのことなのだけれど。
まあ、真面目な性格がそのまま出ることで充実するシーンもあるにはあるね。ベン・アフレックがレベッカ・ホールとデートしている。そこへジェレミー・レナーがあらわれる。レベッカ・ホールはジェレミー・レナーを知らないけれど、首のタトゥーを見れば彼が銀行強盗であるとわかる。それがわかるということをベン・アフレックは知っている。そのときの、緊張感。これもなかなかいいシーンだった。
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