なぜか昔懐かしい「2 本立て」上映である。「アイスバーグ」から上映された。メインは「ルンバ!」ということになるのだろう。
しかし初めて見る監督の作品はやはり最初に見た作品の印象が強い。
「アイスバーグ!」はサイレントといっていい作品である。事故で(?)冷凍庫に閉じ込められた女性が一夜を生き延び、ふいに「氷点下の世界」に目覚める、というような変なストーリーである。何としても北極へ行くんだ、という決意をもって、それを実行に移す。「タイタニック」という小さな船で。この「タイタニック」という名前が端的に表しているのだが、これはナンセンスなお遊びの映画である。
だから、楽しむのはナンセンスである。
この映画は徹底的にクールである。冷めている。
主役の女性が冷凍庫に閉じ込められるところから映画はスタートするが、閉じ込められてもあわてない。死んでしまうかもしれないのだけれど、何ができるか考え、それを冷静に実行する。冷凍庫のなかの商品の段ボールを壊して段ボールハウスをつくるとか、ビニール袋で体を保温するとか。
画面の色彩計画もクールだ。主役の女性の赤いマフラー、寝室の赤い色と、その対極にある白の対比。余分なものがない。
このなにもない感じが、感情をさっぱりさせる。倦怠期の夫婦の関係、さらにはそれが伝染(?)したような、母の不在をなんとも感じない子供たち。深刻ということもできるが、深刻にならずにさっぱりし、それがおかしい。
妻が去って初めて妻の存在を取り戻そうとする夫の悪戦苦闘。今度は妻が、夫がそばにいてもいないかのようにふるまってしまう冷酷(?)な人間関係のおかしさ。浮気相手(?)の船長の何も気にしない感じ。このどたばたが面白い。
タイタニックが氷山にぶつかり沈む。女性は氷山に乗って漂流するが、その氷山が割れて沈んで、女性も沈んでゆくなんて、とてもいい。どたばたしないのである。
「ルンバ!」も似た感じ。ルンバで優勝した2 人が、帰り、自殺志願の男を避けようとして大けが、記憶喪失、さらに失業と最悪の人生を歩むのだが、ぜんぜんめげない。愛はかわらず、日常がクールに描かれる。
ふたつの作品が成功しているのは、ひとつには台詞がない、ということがあるかもしれない。ことばは不必要な「意味」を抱え込んでいまう。不必要な「意味」を排除すると、肉体の強さだけが生きてくる。それを強調するような、2 人の肉体がいい。シンプルでむだがない。すべてがルンバではないが「ダンス」に見えてくるのである。
あ、そうなんだ。「ダンス」と書いて分かったが、この映画は「文学」でいえば「詩」なのだ。「ストーリー」はない。そこでは「肉体」が踊り続ける。どこにもいかず、一点をまもる肉体――その美しさが輝いているのだ。
