「枕船--六月」。
枕船(まくらぶね)とは、湯に浮かべて頭を乗せる、長さ一尺五寸ほどの丸太ん棒様のもののことらしい。
エッセイで高橋はそう説明している。そのことばを伊豆の出湯に浮かべ、書かれたのが「枕船」の句である。
さみだるる朝のいでゆの枕船
枕船一尺五寸さみだるる
露天風呂。雨に濡れて温泉につかっている。何も考えず、頭は「枕船」にあずけている。「さみだるる」のなかに「みだるる」夜の思い出があるかもしれない。記憶を、雨にたたかせている。体の疲れは温泉の温かさがほぐしてくれる。そして頭の疲れは雨が覚ましてくれる。
浮むれば木枕も船うつぎ散る
「うつぎ」は風景の描写だけれど、その白い花びらは、つづけて高橋の句を読んできた私には違った花、男の精の花のようにも感じられる。
*
反句は、ぐっと明るく広がる。
枕船真昼の夢を夏の果て
五月雨のあと、夏の雲の峰。その向こうまで、夢は明るく広がる。高く高くのぼっていく。「枕船」の強さ(硬い感じ)が、夢を支える頑丈な土台のように思える。湯船に浮いているのだけれど……。
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