監督 チャールズ・チャプリン 出演 チャールズ・チャプリン
私は、どうやらチャプリンの映画が苦手なようである。ことばが嫌いなのだ。
私がおもしろいと感じるのは、この映画では、ヒトラーの演説を真似したドイツ語(?)の音。私はドイツ語を知らないが、なんとなくドイツ語風の響きに聞こえる。ドイツ語の癖を音楽のように再現している。それは、ことばではなく、音楽になっている。だから、おもしろい。ときどき、合いの手(?)のようにして翻訳が入る。それも、とてもおもしろい。もちろん、拍手をとめる手の動き、そのときの音と音の空白、それも音楽だ。
もう一つ、ヒトラーがゴム風船の地球儀をつかってダンスするシーンも、非常におもしろい。風船のふわふわしたリズムと、それにあわせた肉体の動きがとても楽しい。映像から音楽があふれてくる。
ところが、ヒトラーを演じていない部分のチャプリン--理髪師のチャプリンが、あまりおもしろくない。定型化している。ハンガリアン舞曲にあわせて髭を剃るシーンは、この映画で3番目に好きなシーンだが、ほかはおもしろくない。
最後のチャプリンの演説は世界に向けたメッセージだけれど、そしてそのメッセージは非の打ち所のないもの、まったく正しいものだけれど、その完全に正しいということろが、つまらない。もちろんこんなことを言えるのはいまの時代だからであって、ヒトラーが台頭してきた時代に、チャプリンが真っ正面からメッセージを発したことはとても重要だとわかっているのだが、それでもおもしろくない、と私は言いたい。
ゴム風船の地球儀をもてあそぶ映像で、ヒトラーを厳しく批判したチャプリンが、最後でことばに頼っているということがおもしろくないのである。ことばに頼らずに、映像と音楽でなんとかできなかったのか。そういう疑問が残るのである。最後のことば(メッセージ)のために、それ以前の映像と音の楽しみを踏み台にしてしまう、踏み台として利用してしまうというのは、ちょっとなあ……なんと言っていいのかわからないが、こまるなあと思ってしまうのである。
(「午前十時の映画祭」28本目)
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