トッド・フィリップス監督「ハングオーバー」(★★★★★) | 詩はどこにあるか

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監督 トッド・フィリップス 出演 ブラッドリー・クーパー、エド・ヘルムズ、ザック・ガリフィアナキス、ヘザー・グラハム

 とてもよくできた脚本である。(脚本家、だれ?)特に新しい何かが描かれるわけではないが、リズムがよくて、細部がとてもていねいである。ドタバタなのに。こういう映画は、私は2回見るというとはないのだが、今回は、昨年秋にニューヨークへ行ったときに見たのが忘れられずに、また見てしまった。
 いちばん好きなのは虎のシーンだなあ。私はもともと虎が大好きで、虎が出てくればそれだけで50点プラスしたいくらいなのだが……。(「地獄の黙示録」も虎のシーンがあるから+αの評価だけれど。)まあ、その虎は置いておいて。
 と書きながら、ふと。
 酔っぱらいって、英語でも虎? ふいに気になってしまった。
 ということは、またまた、おいておいて。
 というふうに、この映画も、適当にストーリーが進んで行く。
 で。
 もし、虎よりも好きなシーンがあるとすれば。スタンガンのシーンかなあ。主人公の3人が釈放してもらう代償に刑務所ツアー(警察ツアー?)の子供たちのスタンガンの標的になる。
 警官「誰か、撃ってみたい人?」
 子供「はーい、はーい、はーい」
 このシーンの、わきの方、スタンガンショーを提案した警官2人とは別に、ツアーの案内役らしい警官がいて、その警官も子供と一緒になって、
 「はーい」
 と真っ先に手を挙げる。
 いいなあ、これ。
 無責任で。
 これに先立って、逮捕された3人を携帯電話のカメラでふとった少年が撮影するシーンがある。それに怒った3人のうちのひとり(彼もまたふとっちょである)が、電話をけりとばす。少年は「何するんだ、いつか復讐してやる」と、声には出さないがにらみ返す。その少年も「はーい」と手をあげ、ちゃんと復讐する。
 ね、ちゃんと伏線が生きているでしょ? しかも、無理がないでしょ?
 この映画、きっと、ラスベガスで聞きかじったあれやこれやのデタラメを全部盛り込んでいるのだと思うけれど、その盛り込み方に無理がない。
 そして、容赦がない。何といっても、酔っぱらっていて何も覚えていない。それが設定だから、何が起きてもぜんぜんおかしくない。
 問題はリズムだけ。
 滞ってはだめ。ただひたすら駆け抜ける。
 設定が、行方不明になった「花婿」を結婚式までに見つけ出すという「時間制限」があるから、まあ、駆け抜けないことにはしようがないのだけれど、ほんとうにスピーディー。伏線はきちんとしているけれど、逆戻りをしない。状況説明(?)にまだるっこしさがない。
 で、このまだるっこしさがないことのいちばんの理由は。
 それは、3人の「記憶」を映像で再現しないこと。何をしたかを映像でたどらないこと。映画は映像を見せるものという観点からすると、これはそれを逆手にとっている。一部、マイク・タイソンの豪邸から虎を盗むシーンは、監視カメラがとらえていた映像として再現されるが、映画そのものとして再現されることはない。欠落している「記憶」は最後まで欠落している。
 欠落しているから、軽いのだ。スピードがあるのだ。明るいのだ。
 そして欠落しているから、彼らが何をしたかもよくわかる。もし、彼らが実際にしたはちゃめちゃが映像化されたら、単なるドタバタで10分で飽きるだろう。他人のドタバタなんて一回笑ってしまえば、もうおかしくはない。
 これまた逆説っぽいいい方になるが、おかしくないことだけが、おかしい。まじめだけが、おかしい。真剣だけがおかしい。
 3人の男は「花婿」を探している。真剣である。だから、おかしいことがおきる。真剣なときは、何かを我慢しないといけなかったりする。そして、それはとんでもないことだだったりする。
 あ、だんだん、まじめな感想になってしまいそう。
 やめよう。
 最後の結婚式の歌手の歌も変だし、その歌手もへたくそなところも楽しい。(タイソンの歌も上手とは言えない。)そういうどうでもいいところが、とてもリアルなのもいいなあ。
 おまけもいいなあ。
 主人公たちのはちゃめちゃは「映画」にはならないが、デジタルカメラの写真には残っている。それが最後にぱっぱっぱっぱっぱっと映し出される。「ニューシネマ・パラダイス」のキスシーンのように。それが、実に充実している。「欠落」が一気にそこに噴出してくるんだからね、充実するしかないのだけれど。
 「一回、みんなで見るだけ。後は削除」
 あ、そんな気持ちでこそ、この映画は見るべきだね。
 私は2回見てしまったけれど、1回かぎりとこころに決めて見ると、もっと楽しいかもしれない。映画を見る前に、そういうことを考えたりはしないけれど、これから見るひとは「1回かぎり」とこころに決めて、それから見てください。
 とても楽しい。
 楽しすぎて、もう一回見たくなっても、私は責任を持ちません。ほら、書いてあるでしょ? この映画は一回かぎり、絶対に、一回かぎりだよ。
 念押しです。

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