誰も書かなかった西脇順三郎(32) | 詩はどこにあるか

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 『旅人かへらず』のつづき。

三五
青いどんぐりの先が
少し銅色になりかけた
やるせない思ひに迷ふ

 西脇の目は、自然の変化を、それも完全になる前の変化を鋭くとらえる。完全に色付いたどんぐりではなく、すこし色のかわったどんぐり。そこには「かわる」ということへの熱い思いがある。「かわる」のは「いのち」が動くから「かわる」のだ。「かわる」ことのなかには、「いのち」の根源につながるものがある。それが「淋しさ」。

三八
窓に欅の枯葉が溜る頃
旅に出て
路ばたのいらくさの咲く頃
帰つて来た
かみそりが錆びてゐた

 「かわる」のは有機物だけではない。鉱物もかわる。剃刀は錆びる。その変化のなかにも、西脇は「いのち」をみている。



北原白秋詩集 (青春の詩集/日本篇 (14))
北原 白秋,西脇 順三郎
白凰社

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