『旅人かへらず』のつづき。
三五
青いどんぐりの先が
少し銅色になりかけた
やるせない思ひに迷ふ
西脇の目は、自然の変化を、それも完全になる前の変化を鋭くとらえる。完全に色付いたどんぐりではなく、すこし色のかわったどんぐり。そこには「かわる」ということへの熱い思いがある。「かわる」のは「いのち」が動くから「かわる」のだ。「かわる」ことのなかには、「いのち」の根源につながるものがある。それが「淋しさ」。
三八
窓に欅の枯葉が溜る頃
旅に出て
路ばたのいらくさの咲く頃
帰つて来た
かみそりが錆びてゐた
「かわる」のは有機物だけではない。鉱物もかわる。剃刀は錆びる。その変化のなかにも、西脇は「いのち」をみている。
北原白秋詩集 (青春の詩集/日本篇 (14)) 北原 白秋,西脇 順三郎 白凰社 このアイテムの詳細を見る |